最近、降谷さんがこちらに来るといつも深い溜息を溢していた。
その原因を作っているのは、降谷さんが毛嫌うFBIの一員…如月まいか。

彼女の有能ぶりは降谷さん本人から幾度となく訊かされているし、何度か遠くから彼女の実力を見させてもらったが、公安に入るのであれば充分過ぎるほどいろいろと兼ね備えていた。
降谷さんが常々溢している「公安に入ってほしい」という言葉には、降谷さんに仕えている我々は全員頷いている。
それほど、彼女には実力があるのだ。

けれど−−−。
降谷さんが(無理矢理)何度かここに彼女を連れて来るからなのか、口だけが達者な女性公安は彼女のことを良くは思っていないらしい。
口だけが達者なのではなく、実力を兼ね備えてから文句を言ってもらいたいな。



「まいか、キミに見せたいファイルがあるんだ。まいかも必要だろう?」

「…それくらい、データを送ってくれても良かったんじゃないの?」



ああ、ほら。
今日もまた、降谷さんは彼女を(無理矢理)連れて来ている。

降谷さんが彼女に好意を抱いているのは目に見えて解るし、彼女の方も口では厳しく言っているが満更でもなさそうだ。
過去は恋人同士だったらしいが、何かがあって別れたのだと珍しく酔っ払った降谷さんから訊いている。

公安に来るとともに、また降谷さんとよりを戻してくれたら良いのに…と思っているのは、何も俺だけではないだろう。
美男美女とは絵になるものだ。



「あら、これは…。」

「それは例の件に関わっている可能性があるファイルなんだ。どうだ?まいかから見ても、そう思うか?」

「そうね…一見関わりのないようにも思えるけど、なかなか興味深いわ。」



彼女がここに居るとき、そして外で偽りの姿で話しをしているときに見掛ける降谷さんはいつもより嬉しそうで、そして真剣さが増していた。
何度か彼女に手を貸してもらったことがあるが、彼女と降谷さんが手を組むと俺たちが動くよりも数倍早く終わる。

ますます彼女には降谷さんとよりを戻してもらい、公安に入ってもらいたい。
元FBIとなれば、わりと簡単に公安に入ることは可能だろう。

真剣に話し合っているふたりにコーヒーでも出そうと思い、休憩室に向かった。
ふたりともブラックで良いだろうか…。







コーヒーを手にして戻ってみると、そこには降谷さんだけが残っていた。



「ああ、ありがとう、風見。」

「いえ…。あの、まいかさんは?」

「まいかならお手洗いに行っている。」




不思議に思いながらも降谷さんにコーヒーを渡し、彼女の行方を訊くと降谷さんはコーヒーを飲みながら教えてくれた。
もう帰ったのかと思ったのだが、どうやらトイレに立っただけらしい。
それならすぐに戻るな、と思ってコーヒーを机の上に置いておいた。

俺の方も仕事が落ち着いてきたし…。
コーヒーを持って来たトレーを戻すついでに、自分もコーヒーを飲んで来よう。
そう思って休憩室に向かうために廊下を歩いていると、少し遠くの方で女の群れが目に付いた。

確かあの影は…降谷さんにベタベタと引っ付いて、媚びを売っている連中だ。
こんなところで油を売っている暇があるのなら仕事しろ、とは思うが、面倒なので触れることなく立ち去ろうとする。

いや、立ち去ろうとした。



「まいかさん…?」



どうやらあの女性公安たちは、全員してまいかさんを囲んでいるらしい。
大人になり、日本の平和を守るべき立場の人間が何をしているんだ…とは思うが今の世の中は、そんなもの。

それよりも、彼女に手が出される前になんとかしなければならない。
あの女性公安たちがどうこうされるのは構わないが、彼女にもし傷が付いて降谷さんの逆鱗に触れたら…。
ああ、想像するのも恐ろしい。



「まいかさ、っ!?」

「あなたたち、本当に役立たずなのね?降谷くんから訊いてるわ。公安の全員がちゃんとしてるわけじゃない…とね。」



助けに行こうとした、まさにそのとき。
攻撃しようとでもしたのか、彼女によって床に這い蹲るように倒れている女性公安が目に入った。
彼女の目は笑っていないし、彼女は彼女なりに怒っているのだろう(いや、彼女の表情が降谷さん以外に読めないのは今にはじまったことではないか)。

彼女は女性公安を冷たく見渡し、ただ一言…「使えない人間は切り捨てられるだけよ…覚えておきなさいね」と呟いた。
まったく、つくづくFBIにしておくにはもったいない人だ。
アメリカ国籍から日本国籍に移せば良いものを…本当に惜しい。



「もしもし、降谷さんですか。数名の女性公安がまいかさんを取り囲み、まいかさんが追い払ったのですが…彼女たちの処分は、私の判断に任せていただいてもよろしいですか?」



降谷さんに電話をし、女性公安たちの処分を俺が決めることを許可してもらう。
俺だけでなく、降谷さんに従い、降谷さんを尊敬している人間であれば誰しもが同じことをするだろう。

さて、まいかさん。
今日これから、公安の枠は減りますよ。
だからぜひ、あなたがこの穴埋めに来てくださいね。

降谷さんの引き抜きが上手くいくことを祈りつつ、違うルートを辿って休憩室を目指した。
早く部署に戻って、人事部に出す書類を作成することにするか。






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公安(風見)視点でモブたちによりを戻してもらって公安に来てもらうことを願われているdolceヒロインでした!
リクエストいただいた文が含まれていることを私は祈っています…!ry
降谷さんの出番が少なくてすみません。

最後に、リクエストしていただき、本当にありがとうございました。



ALICE+