「みぃーどーりーたなーびくー、あーひーるーのー子ー。」



どうも。
みんなのアイドル、ボンゴレ闇の守護者紅蓮の死神こと如月雄魔です。

今日は優雅に夜の散歩、ということで鼻歌混じりに徘徊中(要は言い様だ)。
鼻歌も決して雲雀のことをバカにしているのではなく、ただ気分が良いだけ。

いやー、それにしても夜風は気持ちが良いよね、うん。
こんなに暗いと暗殺のひとつやふたつ頼まれても良いって思うわ。
あ、いや、嘘。
雑魚は殺したところでつまらないし、雑魚処理とかなら別に良いや。



「だーいなーくーしょっおーなくー、なーみーがーい、っうぉ!?」



気分良く鼻歌(もはや歌っている)を続けていると、空から白い鳥が降ってきた。
まさか白蘭が…とは思ったが、白蘭も空から飛んで来たりはしないだろう。
未来に行ったときに会った白蘭ならまだしも、こっちの白蘭は平和だし。

とは言え、俺だって生い立ちや成長の様が一般とはすこし違うだけであって、あとはただの人間なんだ。
興味本位の野次馬根性で何が落ちたのか見に行くと、そこには白いハンググライダーがぼろぼろになって落ちていた。

こんな夜中に、誰が飛んでたんだろう。
森林に入ったからなのか、枝も刺さってるわ破れてるわで、ハンググライダーが可哀想になってくる。
下手くそな運転するなら乗るなよ。

なんて思っていると、遠くの方からエンジン音が聞こえてきた。
この音は確か…あの小太り博士にコナンくんが作ってもらったという、ハイスペックなスケートボードだろうか。

草木の中から抜け出し、大きな路地に出て目的の人物の到着を待つ。
コナンくんが絡んでいるとなればあの下手くそハンググライダー操縦士も、なにか曰く付きなのかもしれないし。
それを確認するためにも、俺はコナンくんの到着を待っていた。



「!?如月の兄ちゃん!?」

「よぉ、コナンくん。」



やはり、と言うべきか、しばらくすると呼吸の荒いコナンくんがやって来た。
恐らくはあのハンググライダーの持ち主でも追い掛けて来たのだろう、来た場所にはお目当の人物ではなく俺が居たからなのか、驚きで目を見開いている。

にんまりとした笑みを浮かべてやればコナンくんは引き攣った笑みを浮かべた。
失礼な、引き攣ることはないだろ。



「あ、っと、如月の兄ちゃん、なんでここに…?」

「ん?いつもの散歩。コナンくんこそどうしたんだよ、こんな時間に。」

「えっと…。」



「どうしてここに居るの?」という質問に軽く答えて質問返しをすると、コナンくんは言い辛そうに言葉を濁す。
今の時間は夜の10時過ぎ。
普通の小学生であれば出歩いてはならない時間だが、コナンくんはどうも普通の小学生のようには思えないし、毛利探偵もすこし自由奔放な節々があるからおかしくはないのかもしれない。

それにしてもやはり、保護者同伴でもなくこんな時間に小学生がうろちょろして良いとは思えなかった。
まあ理由はなんにしろ、コナンくんは俺の背後に潜んでいるであろう人物が気になるんだろうな。
さっきからきょろきょろと目を忙しなく動かしているし。



「さっきからどうしたんだよ、もしかして後ろになんかあんのか?」

「え…?」

「っ!」



コナンくんの視線を辿るように背後を振り返り、その人物の気配がある方にピンポイントで視線を送ると、物陰伝いにそれが僅かに震えた。
そりゃ怖いよなー。
一般人から正体が見破られたと思ったらびっくりするし、そらまあ得体の知れない恐怖が襲って来るわ。

今頃そんな感情に支配されているであろう人物のことを考えたら、なんだか背筋がゾクゾクしてくる。
我ながら良い性格しているな。

取り敢えずコナンくんを上手いこと言い包めてこの場から追い返し、さてと、と呟いて先ほどの場所に目を向ける。
周りが木々で生い茂っているからなのか解らないが、どうやら身動きが取れないと思って間違いはないらしい。
久しぶりに変なものと遭遇したなーと思いながらも、そこに足を運んでいく。



「白いハンググライダー、ってのはニュースで観たことがある。天下の大泥棒サンが使ってる乗り物だとか言ってたな。あの坊やが追い掛けてたってことは…まあ、確信持ってもおかしくねぇよな。」



白いハンググライダーは確か、巷で騒がれている大泥棒サンが逃走手段として主に使っているとニュースで観た。
最初はピンと来なかったが、たぶん…コナンくんが追ってるっていうことはそれなりの理由があるっていうこと。

まあ推理って言えるほどのものではないけど、俺の推理的にはそうだろう。
足で草木を分けて見えたのは、予想通りの人物で、にんまりと笑みが零れた。



「よ、怪盗キッドさん。」



そこに居たのは、予想通り怪盗キッド。
新聞やニュースで見たハットやマントなどはなく、ただ紺のワイシャツに白のパンツだけのラフスタイルだが、まあこいつで間違いないだろう。
その証拠に、怪盗キッドと言えば僅かにだが動揺の色を見せた。



「…はぁ。知ってて俺をあの探偵坊主から避けさせるなんて、変なヤツだな。」



公表されている姿ではないのだから、誤魔化せば良いものを。
それをしないあたり、こいつも一般人ではない人間と関わりを深く持っているから解っているのかもしれない。

俺に誤魔化しは通用しないと思って誤魔化さなかったんだろうな。
ま、下手に誤魔化すよりはマシだろう。



「俺もカタギの人間じゃねーし?どっちかって言えば俺、あんたの言う探偵坊主に追い掛けられる側だしねー。」

「は…?それって、!?」

「Non posso piu dire(それ以上は言えねぇよ).これ以上のことは、有料だ。」



薄く俺の素性を言えば、やはりキッドは追求して来ようとした。
だからキッドの口元に人差し指を重ね、キッドにそれ以上の追求をしてこないようにとそれとなく促す。

柄にもない人助け…まあ、あまりよろしくはない人助けだったが、それもたまには良いだろう。
その場から立ち去ろうとしたとき、ふとキッドの足元に目が移った。

ん?こいつ…。



「おまえ、怪我してんの?」

「っ、べ、っつに…!」

「あーはいはい。無理すんなって。」



血が滲んだ白のパンツに目が行き、怪我をしてるのかどうか訊けばキッドは誤魔化すように目を逸らした。
まったく、そんなくだらない痩せ我慢してなんだと言うんだか。

でもまあ、これで納得出来た。
怖気付いて動けないわけではなく、足が痛くて動けなかったってわけか。
あー…それはそれで、なんか不満。



「おらよ。これでも塗って、しばらくジッとしとけ。10分もすりゃすんなり動けるようになっからよ。」

「ぇ…っ、あ、ありがと…。」



興味も無くなったところで、キッドにボンゴレ特製の塗り薬を投げ渡す。
これは派手にやる俺に返る派手な怪我を心配して、綱吉がシャマルに(無理矢理)作らせたもの。
あのシャマルが関わったんだ、この薬の効果は保証出来る。



「あ、なあ!おい!」

「んあ?」

「これ…さ、今日盗んだヤツなんだけど返しておいてくれねぇか?」

「は!?」

「じゃ、頼んだ!あと薬ありがとな!」

「ちょ、おいコラ!」



呼び止められて引き返してしまったのが運の尽き、というものなのか。
勝手に話しを進められて、さらには勝手に宝石を手渡された。
しかも盗んだものって、なんだよ。

あの怪我は大したことなかったのかなんなのか、宝石を押し付けたあと身軽に消えてしまったキッド。
結局俺はキッドに宝石を返すことも出来ず、宝石片手に呆然と立っていた。

…え、これマジでどうすりゃ良いんだ?







「ということが…ありましてネ…。」

「だから!そういうことを訊いてるんじゃないです!」

「(ふぇ。)」



あれから俺はその足で安室の家に寄り、その宝石を手渡した。
「んじゃまた!グッバイ!」と適当に流して帰ろうとしたが、結果安室に捕まって問いただされているナウ。

経緯を説明したは良いものの、安室はまったく納得してくれていない。
ああ、これはだいぶ…面倒なことになってしまった。



「だからぁ…俺、なんも知らなかったんだって…。あいつが今日盗みに入っていたとか…これも押し付けられたし…。」

「ほー…。それで通用するとでも?」

「いやだから、本当なんだってばー!」



キッドの存在を誤魔化してしまったコナンくんに渡すわけにもいかず、それで公安警察の安室を選んだのだが…。
どうやらそれが間違いだったらしい。
まあ、この場合、誰を選んでいても面倒は避けられなかったんだろうが。

結局俺は、安室の説得説明に時間を費やし、家に帰ったのは朝方のことだった。
最後に、「僕以外の男・女に近付くなとあれほど言ったのに!」とくどくどと説教されて終わりを迎えたのだ。

…俺、あいつのなんなんだろう…。
涙が出て来たよ。






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リクエストありがとうございました。

怪我をしたキッドを〜渡された宝石を安室に渡して尋問される、というリクエストを頂きました。
安室さんの出番少ないですし、リクエスト通りに出来たか不安で…すみません。

最後に、
リクエストしていただきまして、本当にありがとうございました。



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