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都大会も終わり、部活にもすこしだけ落ち着きが出て来た。
まいかからのお守りもあってか地区大会同様ストレート勝ちを収めた俺は個人で全国大会出場を決め、なんと団体戦でも全国大会へと勝ち進めることとなった。

結果を報告しようと携帯を開いたが、それはやめて鞄の中に携帯を片付ける。
どうせ明日の祭りで会うんだ。
報告は明日でも良い。







今日の祭りは、花火大会もあるらしい。
とは言っても浴衣なんて持っていないから、かなりカジュアルな服装なのだが。

待ち合わせ時刻まで、あと5分。
まいかはだいたい丁度に到着するので、あと5分もすればここへ来るだろう。

俺の予想は正しく、待ち合わせ時間としてあらかじめ指定していた時間ジャストにやって来たまいか。
人混みも出来てきだしたので顔だけしか判断出来ず、手を挙げて「まいか」と名前を呼ぼうとしたときだった。

思わず止まってしまう声。
なぜか、と言うと、まいかが予想していなかった服装でやって来たからだ。

髪の毛は左側に流して緩く巻き、赤のかわいらしい簪を着けて。
そしてすこし派手ではあるものの、黒色の生地に紫の薔薇が散りばめられた大人っぽく色気のある浴衣を着て来た。



「零くん、遅くなってごめんなさい。下駄は歩き辛くて…。」



歩き辛そうに、ひょこひょことこちらへ歩いて来るまいか。
言葉通り、歩き慣れない下駄に苦戦しているようでいつものような完全なる無表情などではない。

ああ、いや、それよりも。
アメリカ育ちらしいまいかが浴衣なんて着てくるとは思わなかったし、化粧だって浴衣栄えする良い感じの化粧だ。
何よりもデートみたい(いや俺はデートのつもりで誘っていたけど)で、俺の心臓はドキドキと鳴って煩い。

まさか、高校生にもなってこんな少女漫画のような展開にトキメクなんて、思ってもいなかった。
こんなことなら、もうすこし女慣れしておいて…こういうことに対して余裕のある男になっておけば良かった、と後悔。



「…零くん?怒ってるの?」

「!い、いや、怒ってない…。」

「そう…。なら良かった。」

「ッ!」



何も返さない俺に不安を抱いたのか、安定の無表情で俺の顔を覗き込むまいか。
怒ってもいないのに怒ってると思われるのは嫌だったから否定したのだが、そもそもそれが間違いだった。

顔を覗き込まれていたから、まいかと俺の顔の距離は近く、嬉しそうに微笑む顔が俺の間近にあって。
自分が彼女の表情を変えられたら良いのに、と思っていたことが現実であって嬉しい反面心臓が煩かった。

熱くなった顔を隠すために顔を逸らすと「零くん?」と再び名前を呼ばれる。
俺ばかりが意識しているようでなんだか悔しくて、だからいつもの冷静な"降谷零"で居るために平常心を保つ。



「…なんでもない。まいか、行こう。」



さり気なく手を差し出すと、俺の手にまいかの手が遠慮がちに重なる。
その手を離すまいと強く握り締めて、俺たちは歩き出した。
本当に、恥ずかしいことではあるがまいかには振り回されてばかりだ。

ああ、もう、なんと言えば良いのか。
彼女の表情の変化を作らせたのは自分でそれはものすごく嬉しいことだけど。
無自覚というものは、恐ろしいらしい。

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