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手を繋いだまま屋台を回り、気が付いたらまいかは大量の食べ物を買っていた。
あれ、俺は手を離していないのに…まいかはいつの間に買ったんだ?

まいかが手にしているのは、焼きそば・たこ焼き・焼き鳥が入っているであろう袋・から揚げ…とまあ、女ひとりで食べるには多過ぎる量で。
よくそれを片手で持っていたな、と呆れ半分感動半分ですこし早めに花火がよく見える位置へと向かった。

今日の祭りでは、花火も上がる。
女ってこういうものが好きだろ、とは思うが、まいかは俺の予想を上回ることもあるからそれを好んでくれるかは、正直なところよく解らない。
この様子を見ている限り、食べ物を与えた方がよっぽど喜んでくれそうだ。



「はい。零くんも食べるでしょう?」

「…いや、俺はまいかが食べ切れなかったらで良いよ。」

「そう?」



海のときも使ったレジャーシートを持参し、地面に敷いてそこに腰を下ろす。
そしてまいかは「はい」と箸と食べ物を手渡してきたが、苦笑いを浮かべながらそれはやんわりと断らせてもらった。

本当なら女に出させるよりも俺が出した方が格好がつくのだが、如何せんまいかの場合は俺が知らない間に買っていたし…何よりも、量が多い。
高校生の小遣いを侮るなよ。

割り箸を割って、手にしている食べ物を美味しそうに食べるまいか。
顔こそは無表情ではあるが、まいかの周りには花びらか何かが飛び交っているような錯覚を見させられるくらい、雰囲気が嬉しそうにしていた。

そう言えばサボっても支障はない授業でしか一緒に居なかったな、と思い出す。
怪しまれないように(この前のこととふたりで授業を抜け出している時点で既に怪しまれているとは思うが)弁当は別々で食べているから、まいかが食べることが好きということははじめて知った。

いや、それにしてもこの量はすごい。



「フードファイターか?そんなに食うと太ると思うけど?」

「煩いわよ。私はいくら食べても太らないの。だからこれくらいの量、食べたって別に平気よ。」

「おまえ今、痩せたい人間を全員敵にしたの解ってる?」

「人は人。私は私。だから私は喧嘩を売ってるつもりはないわ。」



パクパクと食べながら、なんとなく俺が言ったこととは違う答えがくる。
別に「喧嘩売ってる」と言ったわけではないが、でもよく考えてみると、確かにそう言ってるのと然程変わりはない。

人は人、まいかはまいか。
そんな当たり前のことを言われて、俺が言ったことと似たようなことを言う人間は筋違いな文句を言っているのかもしれない、と妙に納得させられた。
納得、と言うよりも理解、と言った方が正しいだろう。

あの量を僅か10分足らずで食べ終えてしまったまいか。
今さらではあるが、まいかに女子としての恥じらいというものはないのか…、と思わされる。
…いや、俺はまいかから異性として思われていないんだろうか。



「ねぇ零くん、もしかしてここのお祭りって花火大会があるの?」

「ああ、まいかは花火より食べ物かもしれないけど、ある。」

「失礼ね。私だって花火は好きよ。」

「ごめんごめん。」



食べ終えたまいかから花火のことを訊かれ、すこしだけ意地悪を言うとさっきまで浮かれていた雰囲気が、ほんのすこしだけムッとしたものに変わった。
ああ、なんとなく、まいかという人間がすこしではあるが、俺にも理解出来るようになったのかもしれない。

顔だけを見たら、まいかは確かに無愛想だと思われるだろう。
それは、表情がないから。
だけどきちんと話していると解る、まいかは雰囲気で自分の表情と感情を表に出しているのだ、と。



「あ。」



すこしくらい近寄っても良いだろうか?
そんなことを思っていると、いよいよ花火大会が始まった。

暗闇に咲く花は儚くて。
一瞬で咲いて一瞬で散り、また次の花が大きな暗闇に浮かぶ。
淡くて儚い芸術作品だな、と思いつつまいかを横目で見ていると、まいかは花火から一瞬たりとも目を逸らさずに、集中しているようにも思えた。

−−−今なら、大丈夫かもしれない。

横に置かれているまいかの手に、遠慮がちではあるがそっと手を重ねる。
一瞬だけまいかの身体がピクッと反応したようにも思えたが、振りはらわれるなどの拒否をされることはない。

今だけはまるで恋人同士だな…と多少自虐めいたことを思いながらも、手はそのままにふたりして花火を眺める。
花火大会が終わらなければ良い、と柄にもなく思ってしまったのは…雰囲気のせい、なのだろうか。



「…好きだ。」



口から思わず出た言葉。
その言葉は花火によって掻き消され、まいかの耳に届くことはなかった。

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