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季節は秋、文化祭のシーズンになった。
毎年このシーズンでは、模擬店やら出し物やらで学校全体が騒がしくなる。

このクラスだって例に漏れない。
今だってそう、クラスの模擬店についてひたすら揉めていた。



「メイドカフェなんて気持ち悪いだけじゃん。あんたたちが楽しようって言うのは目に見えてるのよ!」

「はあ?そんなもん執事喫茶だって一緒だろ!おまえらだって俺らに全部押し付けるつもりなんだろうが!」



こんな感じで、進む気配がない。
私は傍観を決め込んでいるのからこの言い争いに参加する気はないけど、なかなか決まらないのは困る。
ここで権力のある人が仲裁してくれたら良いんだけど、ね…。

このクラスでもっとも権力が有りそうなのは、ひとり…零くんだ。
だけど零くんも私と同様に傍観を決め込んでいるらしいから、ずっと素知らぬフリを貫いている。

彼がそうなるのなら、この問題の早期解決はもう諦めるしかない。
この際これに巻き込まなければなんでも良い…と私も悟りを開いたときだった。



「俺らは如月のかわいい格好が見たいんだよ!おまえらとか、どうでも良い!」

「あたしたちだって降谷くんの燕尾服姿を見たいの!だから引けないわ!」

「「……………………はい?」」



何やら恐ろしい言葉が耳に届き、誰かと言葉が重なる。
それはもちろん、私同様で言い争いに名前を出された零くんで。
巻き込むなと願っていたのに、なぜか歪み合いの中心へとなってしまっていた。
私、メイドなんてしたくないわよ。



「…私、メイドなんてしないわ。」

「俺も執事とか絶対やらない。おまえらで勝手にやれば?」



釘を刺すように私はメイドはしない、零くんは執事をしない、と言えば、クラスから飛んで来たのはブーイング。
何を言われても、私は去年や一昨年と同様文化祭なんかに深く関わりたくない。
思い出だのなんだのと周りは煩いが、私にはもともと友だちと呼べるものが居ないのだから、その思い出作りたるものに参加するつもりはまったくもってない。

文化祭を楽しみたいのなら、自分たちが出来る範囲で楽しんでほしいと思う。
他人の思い出を作るためだけに、無関係な私を巻き込まないで。



「如月さんはメイド、降谷は執事が嫌なんだろ?じゃあハロウィンみたいにフツーの仮装喫茶で良いじゃん。」



私はメイド服なんて着ない、と断固拒否していると、零くんの友だちが名案とでも言いたげに爆弾を投下した。
クラスのみんなは「それも良い!」なんて騒いでいるけれど、着るものがメイドじゃなくなったところで仮装自体が嫌なのだから、嫌なものには変わりない。
そう思うのは零くんも同じらしく「余計なことを言うなばか」と零くんの友だちの頭を殴っている。

結局クラスの模擬店は仮装喫茶となり、私と零くんは最後まで否定したものの多数決という回避不可能な行動のせいで最悪の結末…強制参加となった。

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