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「かわいいー!」

「降谷くん本当に似合ってる!」

「本当かわいい!」



………どうして俺は、こんなわけの解らないことになっているんだ?

ことのはじまりは、そう…文化祭の模擬店決めのとき。
ばか(友人)のせいでクラスの模擬店は仮装喫茶となってしまい、俺とまいかが迷惑ながらも巻き込まれてしまった。

そして今はその準備に追われ、裏方に回った人たちに当日着る仮装候補を次々と着せられている。



「降谷くんってかわいい顔立ちだから、やっぱりうさ耳似合うよねー!」

「…はあ。」



溜息を溢す俺を、誰が咎められる?

着せられたのはうさ耳パーカー。
さっきまで着ていたのは猫耳にも見えなくはない、狼の耳。
俺で遊び過ぎじゃないだろうか?

女子は女子でずっと「うさ耳が良い!」だの「狼の方が絶対良い!」だのとひっきりなしに騒いでいる。
はっきり言おう、どっちも嫌だ。

逃げ出したい、と頭を抱えていると、反対側の仕切りから黄色い声が飛び交う。
確かあっちでは、まいかが衣装候補に着替えていたはずだ。
どんな服装なんだろうか、と思っていると俺の周りに居た裏方に見せるためか、その仕切りが外された。



「っ。」



まいかの方は俺と違って、既に服装は決まっているらしい。
髪の毛も綺麗にセットされ、メイクも服装に合わせて丁寧に施されていた。
そんな姿に、思わず息を飲む。

まいかが着ているのは、俗に言う花魁。
赤ベースの花魁はこの前見た浴衣とはまた違い、良い意味で色気を出している。
真っ赤に染まった唇も魅惑的で…俺は不本意だが、まいかの服を決めた奴に賞賛を贈ってやりたいと思った。



「…何?かわいいうさぎさん。もしかして私に見惚れてるの?」

「っ、べ、別に見惚れてない。」



ふと視線が重なったと思うと、まいかは俺に近付いて妖艶な笑みを浮かべて、大き過ぎる爆弾を投下した。
あの無表情人間だったまいかが、俺に対してはこんなにもコロコロと表情を変えていることはすこぶる嬉しい。
けれど、今そんな爆弾を投下する必要などは一切ないはずだ。

俺も何か言えたら良いものの、自分はまいかが言うようにうさぎというかわいらしい格好をさせられている。
そんな格好では、何を言ったところで怖くもなんともないだろう。

結局、まいかは花魁、俺は眼鏡にスーツ(獣耳は関係なかったじゃないか!)という結果で衣装決めは落ち着いた。

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