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文化祭当日。
仮装喫茶は想像以上に大好評で、メインとされた俺とまいかは大忙しだった。

くそ、誰だよ。
気に入った人とツーショットが撮れる、なんてくだらない特典考え出した奴は。
しかも1回1,000円ってぼったくりか。



「はあ…。」

「疲れてるようね。」

「っ!」



休憩で人気の少ない階段に座って項垂れていると、声とともに首にひんやりとした冷たいものが当たる。
それに驚いて顔を上げると、無表情なまいかが俺の目の前に立っていた。

そして手渡される、未開封のウーロン茶のペットボトル。
これ、模擬店で出してたラベルだから…たぶん、こっそり盗ってきたな。

深くは突っ込まずにお礼を言い、キャップを開けてウーロン茶を喉に流す。
思ったよりも喉は渇きを訴えていたらしく、ウーロン茶を飲んだ瞬間に喉に感じていた渇きが瞬時に失せた。

ごくごくとウーロン茶を飲んでいると、まいかが俺の隣に並んで座る。
まいかも休憩なのだろうか。



「私も休憩?って思ってるでしょう。」

「な!」

「ふふ…。図星ね。残念ながら休憩はハズレよ。ストックしていたものが完売したから、模擬店はもう終わり。」

「っ、そういう、ことか…。」



俺の考えが読まれていたことに驚き、それが悔しいとも思ったが…まいかから偶然にも良いことが訊けた。
店にあったものが完売しては、これ以上営業することなんて出来やしない。
だからもう、終わりだそうだ。

やっとあの忙しさから解放される…、と思ったら、さっき以上の疲れが身体を襲い、一気に全身が気怠くなる。
家に帰れるのはまだ先だと言うのに、一気に襲い掛かって来た気怠さが辛い。
一刻も早く本当の解放時間(下校時刻)になってくれないだろうか。



「ねぇ、零くん。」

「ん?」

「零くんって、私のこと好きなの?」

「ブッ!」



水分補給でもすれば些かマシになるかもしれない、と思って再びウーロン茶の飲み口に口を付ける。
飲んでいるときにまいかから話し掛けられ、それに答えるとそれはもう核爆弾レベルの大きな爆弾を落としてきた。
まいかのせいで口の中から、飲み途中だったウーロン茶が溢れたじゃないか。

あまりにも的確に核心に触れてくるものだから、弁明の余地もなく言葉に詰まって何も言えなくなってしまう。
ああ、こんなもの、まいかのことが好きなのだと自分から言っているのとさほど変わらないじゃないか。

そうだ、俺は、まいかが好きだ。
普段は無表情なくせに、俺と居るときに見せてくれるコロコロ変わるいろんな表情がかわいくて。
まいかと居るとゆっくりと流れる、心地の良い時間も全部愛しいと思ったんだ。



「…そうだよ。好きだよ。悪いか。」

「…私って、ズルいよね。」

「…どういうことだ?」

「確信がないと踏み出せない。零くんが私のことを友だちとしてしか見ていなったら、きっと言えなかった。」



小さな声で「そうだよ」とやけくそになりつつ言うと、落ち着いた声で「私ってズルいよね」と言うまいか。
その言葉の意味が解らず、どういうことかと聞き返したあと、思わず自分の耳と思考回路を疑った。

確信がないと踏み出せない。
俺がまいかのことを友だちとしてしか見てなかったら言えなかった…。

バクバクと心臓が煩く鼓動する。
俺の気持ちがバレて恥ずかしい、と思ったときよりももっと速い、期待に満ち溢れた心臓の鼓動。



「私、ね。零くんが好きみたいなの。」



はじめて見た、照れくさそうにしているまいかの笑顔。
いつもどこか飄々としていたのに、今ばかりはかわいらしい、どこにでも居そうな普通の女の子の顔をしていて。
堪らず俺は、まいかを抱き締めていた。

近付いて良いのかと戸惑った距離。
雰囲気だから許されると思った距離。
それが、まいかのすべてに触れても許されるような距離になった。

恋がこんなにも胸を締め付けられることだと、はじめて知った高校三年生の秋。

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