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冬休みに入った。
そろそろクリスマスだからなのか、街は浮かれて街並みもお店もクリスマス一色。
キリスト教徒ではない上に、ただ楽しみたい、日本人特有のお祭り体質のせいで浮かれる人々。

私も日本人ではあるけど、アメリカに居たからなのか心底楽しむつもりは一切ない。
まあ、アメリカも日本と似て楽しんではいるが、キリスト教徒も多く居るのでミサに行く人も多かった。

かく言う私も、ミサには毎年母と同席している。
父はいつも仕事で不在だが、特に気にはしていない。
そういった形で参加する家族も少なくはないから。

クリスマスが終われば、年が変わる。
そして年が変われば…良いや、止めておこう。
せっかくここは日本なのだ。
日本に居るのであれば、日本人らしく振舞っていた方が楽しめるというもの。

止めていた足を再び進めると、携帯が震えだした。
耳に入る音は、彼にだけ設定した特別な音楽。



「…もしもし?」

『まいか、今暇か?』

「そうね…ひとりで街を歩くくらいには暇よ。」



電話に出ると、聞こえて来たのは愛おしい彼の声。
そうだ、今年のクリスマスには彼が居る。
それなら、クリスマスプレゼントでも贈ってあげよう。

彼に似合いそうなものが置いてあるお店に入りつつ、彼との電話を楽しむ。
秋にあった全国大会が終わったので部活もなくなり、どうやら零くんも暇を持て余しているらしかった。

他愛のない会話を楽しみながらも、零くんへの贈り物を慎重に吟味する。
父の仕事柄わりと裕福ではあるが、高校生である自分ではあまり高価なものは買えない。
何か手頃な値段で良いものはないのだろうか…。



『まいか、訊いてるか?』

「…ごめんなさい、もう一度言ってもらえる?」

『だから、イブとクリスマスは空いてるのか?』

「あら、そんなこと。零くんと母しか一緒に過ごせる人が居ないのに…愚問だわ。」

『それもそうだな。』



どうやら私は、クリスマスもクリスマスイブも零くんと過ごすことが出来るらしい。
ひとつずつ私に刻み込まれる、思い出のページ。
それが嬉しくもあり、逆に切なくもあった。

気が付けば長時間話し込んでいたため、「通話料は大丈夫なの?」と訊くと「かけ放題にまいかを登録したから大丈夫だ」と返されて嬉しくなる。
彼は…零くんは本当に、私の心の中に入り込むのが上手くて嫌になるくらいだ。

最初は本当に興味だけだったのに、気が付けば今は零くんが大切な人になっていて。
いつか後悔するときがあっても良い、と思えるくらいには零くんを大切に思っている。



「クリスマスプレゼント、期待してるわよ。」

『美味しそうな食べ物でも贈ってやろうか?』

「とっても素敵ね。」

『まいかは本当に…食い意地が張ってるんだな。』

「あら、心外ね。私は零くんから貰えるものなら、なんであっても嬉しいのよ?」



クスクスと笑みを零しながら軽口を叩くと、慌てた様子の零くんの声が届いてくる。
彼の焦った顔は好き…だから見たいけど、残念ながら出先なため見ることは出来ない。

本当に、彼には困ったものだわ。
誰かに読まれることを嫌い、隠し通すために無表情な如月まいかを創り上げたと言うのに。
零くんはいとも簡単に私の無表情を崩してくれる。
それが嫌とは思わないほど、当たり前になっていた。

こんな時間が続けば良い。
零くんと過ごせる時間がもっと長ければ良いのに。
私たちは、出会うのも惹かれ合うのも遅過ぎたんだ。

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