01


とある噂を耳にした。
今年入ったFBIに、秀でた女性捜査官がいる、と。
彼女には上層部の誰しもが目を付け、そしてこう呼んでいるとも訊いた。

−−−"第二の赤井秀一"と。

興味はある。
その彼女がどんな人間で、どんな捜査官か。

俺もまだまだ駆け出しではあるが、上層部から期待されているということは解っている。
だからこそ、その自分の名を連ねられる彼女に興味が湧きだしたのだ。

彼女はアメリカで生まれ育った、アメリカ人の母と日本人の父を持つハーフ。
兼ね備えられた美貌と、それに劣らない頭脳。
常に無表情な彼女の感情は一切読めず、人と不用心に関わることもしない秘密主義者。
顔は見たことがないが、俺はそう訊かされていた。

任せた仕事は完璧な状態で上層部に受け渡され、それこそ、無表情なことも相まって例の組織の潜入にはもってこいな人材だと話しが出ていたらしい。
しかし、彼女はその仕事を断った。
自分なんかがその組織に潜入してはだめなのだ、と。

上層部はそれを悔やんでいたが、潜入以外であれば組織に関わる仕事を承る、と言われたことで諦めたらしい。
俺ならば断らずに潜入するものを、彼女はなぜ。
まあ、深く考えたところであまり意味はないだろう。
何せ、俺が彼女と関わることは当分なさそうなんでね。



「失礼します。赤井さんはいらっしゃいますか。」

「…俺だ。」



コーヒーを飲みながらパソコンと向き合い、上司から言い渡された処理をしていると名を呼ばれる。
聞き慣れない女の声だ、なんの用かは知らないが椅子から立ち上がり、声のする方へと向かった。

その女を見て、思わず「ほぉ…」と声が零れる。
誰かが言ったわけではないが、ひと目見て解った。
彼女が期待されている捜査官なのだ、と。

関わることはない、と今しがた思ったばかりであるというのに、この偶然はなんだろう。



「上層部からの書類です。お急ぎのようでしたので、ちょうどその場に居た私が届けさせていただきました。」

「そうか、ありがとう。」



彼女に渡されたのは、薄手の書類。
"Shuichi Akai"と書かれていることから、確かに俺宛ての書類であることに間違いはなかった。

用件はそれだけだったらしく、「それでは失礼します」と言って俺に背を向ける。
サラサラと伸びた、嫌味のないブラウンの髪が風に靡いていて、綺麗だと思った。

齢23にして、女でこのFBIに入り期待されている。
とてもそうは思えない風貌ではあったが、彼女の背中からは深い信念・野望・後悔・絶望…。
その総てが隠されているように見えて、普通の人間ではなさそうだと思った。

俺が彼女とともに捜査をすることはあるのだろうか。
いや、きっとある。
これは俺の勘に過ぎないが、近々本格的に組織を追うためのチームが作られるから、恐らくは彼女もそこのチームに配属させられるのだろう。

彼女から手渡された書類を目にし、コーヒーを飲みながらそれをじっくりと読んだ。

ALICE+