03


赤井さんの部下となり、今まで配属されていた部署は当たり前に移動になった。
そして私は赤井さんの部下として、さらにはリーダーという上司になって数名の部下を得る。
それは赤井さんのチョイスに任せて3人ほど選んでもらったので、人選に不満はない。

部下が3人で良いのか、と無言で驚かれたが…今はそれで充分足りている。
情報収集・狙撃・カーチェイスに長けた人材をひとりずつ集めてもらえれば、彼らだけで行動出来るのだから。

はっきり言って、私はだいたいのことであれば出来る。
だからそれを補い、補助する人物がまずはひとりずつ欲しかっただけなのだ。
私がきちんとした上司になるまでは、部下は3人で充分過ぎるくらいなのだから。
また私が大きくなれば…増やさせてもらうだけ。



「如月、さっき渡した案件だが、」

「終わりましたよ。案件をザッと見たとき、すぐに入り用になりそうでしたので。」

「ほぉ…。やはりキミは優秀だな。」

「いえ、そんなことは。」



赤井さんの部下としての仕事を済まし、彼らの上司として仕事の指示を仰ぐ。
大元の指示は上層部なのだが、それをさらに部下たちへと指示するのは私。

潜入する代わりに、ということで組織を追う仕事を任されているのだ、それくらいはしなくてはいけない。
しかし奴らが尻尾を出すのは少なく、しかも日本での活動が活発なため少々やり辛いのは事実だった。



「赤井さん、他は何か有りますか?もしなければ調べ物をするため、外出したいのですが。」

「構わん。もう如月に頼むほどの仕事はないからな。」

「了解しました。」



赤井さんの許可を得て、身支度を済ませる。
仕事がない、となれば今日は直帰コースだろう。

たまに不思議に思うことがある。
赤井さんは部下を取るほど秀でているのは解るが、ひとりである程度は済ませてしまうため部下である私たちは手薄になることが多々あった。

それは私の前でだけそうなっているのかは解らないが、赤井さんから残業を決め込むほどの量の仕事を手渡されたことは一度もない。
だからこそ好き勝手させてもらえるので有り難くはあるのだが、ひとりで仕事を済ませてあの人が倒れてしまわないかということも気にかかる。
上司が倒れて良い気になる部下など、赤井さんが選んだ中にはひとりも居ないだろうから(どちらかと言えばみんな赤井信者だ)。



「Hello? Was their movement here at the country and an oversea?(もしもし?国内・国外で奴らの動きはあったの?)」



部下へ掛けた電話は、今日の情報の共有。
怪しげな薬を開発している、ということは調べ上げてくれたのだが、その尻尾を掴むことが出来ない。

動きがあったのかと訊いてみても、答えはNo。
奴らがそう簡単に証拠を残すとは思っていないので、部下へのお咎めなんかはない。

電話を終えて車に乗り込み、エンジンをかける。
赤井さんにはああ言ったものの、特別調べたいことなどはひとつもなかった。



「…昔の私なら、義務付けられたことをサボることなんてあまりなかったのに…。本当、おかしな話しだわ。」



どうしてあんなことを言ったか、と言えば、敢えて言うであれば"休息がほしかった"だろう。
別に疲れ果てているつもりでもないし、赤井さんが部下のミス処理に追われたり(それでもいつもスムーズに済ませているけど)外に出て危険な仕事をしていることも、当たり前だけれど知ってはいる。

だからこうして帰ることもなかったのだけれど…。
赤井さんと居る時間がすこし長過ぎたのかもしれない。

未だに忘れられない人…零くんと赤井さんは、どことなくだけど似ていると思った。
見てくれや声など、見て解ったり訊いて解るような部分の相似ではなく、雰囲気が似ている。
それでも彼を私のテリトリーに入れるつもりはカケラもないけれど、一瞬でも気を抜いたら迎え入れてしまいそうな気がして…常に気は張っていた。

仕事からかもしれない、ただ部下の素性は頭に入れておきたい人なのかもしれない。
赤井さんは何かあると私に言って、そして気が付いたら近付いて来ようとしている。
身体的な近付きなどではない精神的な…目には見えないテリトリーへの侵入…、ということで。

私はそれが嫌だった。
きっと彼が近付けば近付くほど、あのときの悲しそうな零くんの顔が浮かび上がってくる。
誰かを傷付けて悲劇のヒロインにでもなりきり戻るくらいなら、私は最初から誰も近付けないことにしたのだ。

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