06


「まさか赤井さんと捜査することになるとは思いませんでしたよ。」

「俺だってそうだ。」



今日は珍しく、赤井さんとの任務にふたりであたっていた。
部下を従えるふたりが同じ任務を遂行する、ということは珍しいとも言え、私ははじめて赤井さんと組んでいる。

けれどそれほど、その任務は厳しいものということなのだろう。
内容を訊いた瞬間簡単ではなく、厳しい任務だということは解ってはいたが。

今回の任務は、ベルモットが変装した人物を追い掛ける…というもの。
捕縛出来れば捕縛した方が良いのだが、恐らくそれは不可能だろう。
ベルモットだって組織の人間だし、そう簡単にしてやられてはくれないはずだ。

しかも他の調査員からの報告によると、ベルモットは組織の裏切り者を消すために組織のスナイパー…キャンティとコルンも引き連れているらしい。
そうなると遠距離からの銃撃戦を避けることは難しいので、だからこそ私と赤井さんがこの任務にあてられたのだろう。
上層部から狙撃手として名前を挙げられるのは私と赤井さん、ということくらいは、安易に予想することが出来る。



「裏切り者はなるべく捕獲するよう、ジェイムズからも言われている。」

「解りました。…ですがその裏切り者、生っ粋な組織の人間なんですよね?最優先人物はベルモットたち幹部の捕獲だと上からは訊かされていましたが。」

「ああ。出来れば死人が出ないようにするだけであって、組織の裏切り者を優先させなければならないわけではない。」

「了解です。」



赤井さんが運転する車の中でライフルを取り出し、スコープを取り付ける。
私と赤井さんの読みでは、変装したベルモットが裏切り者を呼び出し、遠距離からキャンティとコルンが撃つ。
それが当たるとしたら、まずはキャンティとコルンのふたりのライフルを使い物にならないようにしなければならない。

私がキャンティを、赤井さんがコルンを撃つため、お互いが予想して定めたポジションへと移動していく。
ひとりになって廃屋の屋上へ行き、装置を置いてライフルを装着させる。

こちらの準備は完了した。
あとは、キャンティが予想通りの場所に現れてくれるのを待つだけ。



「こちらの準備は整いました。キャンティが現れるのを待ちます。」

『了解。』



小型の通信機で赤井さんと連絡を取り、こちらの準備が整ったことを知らせる。
時間までは想定しきれてはいないが、あと少しで来るだろう。
ベルモットを監視させていた私の部下からの報告によると、変装をしたベルモットは既に裏切り者と呼ばれる組織の人間と合流したらしい。

いつキャンティが現れても良いよう、スコープを覗いて待機する。
しばらくすると狙い通りの場所にキャンティが現れ、ベルモットが乗っているであろう車のエンジン音が響いた。

まずはキャンティのライフルを壊し、すぐさま車で現場へと移動しなくては。
裏切り者だってもともとは組織の人間なのだ、銃くらいは扱えるはず。
裏切り者自身で、私たちが駆け付けるまでの時間稼ぎくらいは出来るだろう。
ここからそこまでは、そう距離はない。



「キャンティがライフルを構えたら…そこを、撃つだけ。」



ライフルを構え、スコープ越しにキャンティをジッと観察する。
キャンティがライフルにスコープを装着していた、そのときだった。

"ダンッ"

とてもライフルとは思えない発砲音が耳に届き、慌ててその場に立つ。
赤井さんが普通の拳銃で狙撃した可能性もあるが、恐らく彼は今日、普通の拳銃など持ってはいないはず。
すべての銃を主とする私とは違って、彼は主にライフルでしか発砲しないから。



「赤井さん、今の発砲音は…。」

『…やはり如月でもないか。急げ、今から奴らが居る場所へと向かうぞ。』



通信が入り、ピッと音を立てて繋がる。
私は彼からの言葉も待たず自分の疑問を口にしたが、どうやら彼も、あの発砲音とはなんの関係もないらしい。

とすると、ベルモットと裏切り者が撃ち合いをした…ということか。
けれど発砲音はひとつだし、まさかキャンティやコルンを引き連れているのにベルモットが発砲したとは思えない。
なら、まさかベルモットが…?

"ダンッ"

何がなんだか解らない。
そう思っていると、2度目の発砲音が聞こえてきたので私はスコープを覗き、遠くのキャンティの様子を伺う。

キャンティはキャンティで驚いているらしいし、彼女がライフルを装置しようとしていた方向を見て呆然としている。
そうなるとやはり、ベルモットが自ら手をくだしたのか…。

いや、今はそんなことを思っている場合などではない。
赤井さんの指示に従い、発砲が起きたであろう現場に向かわなくては。

ライフルを片付け、背中に背負い。
そして廃屋の階段を駆け下りた。
…この胸のざわつきは…なんだろうか。

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