07


車で移動せずとも近付ける場所に居たので、拳銃を持って入り口に潜む。
ベルモットがここに居ないと確信が持てない今、無用心に近付くのは賢くないと言えることだろう。

息を飲んで、その場に佇む。
しばらくしても物音ひとつしなかったので、もうベルモットは居ないと判断し、それでも万が一のことを考えて拳銃を前に構えたまま中に入っていく。



「………え?」



中にはもう、ベルモットは居なかった。
居なかった代わりに居たのは、先ほどの発砲音で死亡したと思われる骸ふたつ。

だけどその骸…遺体は、どちらも私がよく知る人物のものだった。



「如月!」



珍しく声を挙げて私のもとへと駆け寄ってくる赤井さん。
けれど私は遺体から目を反らすことも出来ず、ただその場に立っているだけで。
何かをすることすら億劫とだと思えた。



「如月、どうした。」



赤井さんの問い掛けにも答えられない。
何も答えない私を不思議に思ったらしい赤井さんは私に近付き、赤井さんもその裏切り者の遺体を目にした。

男女の遺体。
男の方がアジア系で、もうひとり…女の方がアメリカ系。
赤井さんが息を飲んだ音が聞こえる。

きっと、察しの良い赤井さんなら既に気付いているだろう。
アジア系とアメリカ系男女の遺体、何も話さない、動けない私。



私の目の前の遺体は、例の組織から見付からないよう…隠すようにしながらも必死に私を育ててくれた、両親だった。



「…っ!お母さん…お父さん…っ!!」



覚悟はしていた。
両親は、自由もなく殺人や犯罪を繰り返す組織のことを良く思ってなかったし。
そうなると、いつかは組織を裏切って逃げ出す可能性も私は考えていた。

運が良ければ逃げ切って、けれどいつかは殺されて…運がなくとも殺される。
そういう運命にいたと、解っていた。

だけど私の目からは重力に抗うこともなく、涙が止めどなく溢れ落ちている。
ばかな両親、とも思う反面、祖父母を知らない私からしてみたら大切で…唯一の肉親だから、悲しくて。



「お父さん!お母さん!ねぇ!起きてよふたりとも!…っ、ねぇ!」



無駄だと解ってた。
いくら身体を揺らしても、冷え切ってしまった身体は硬直がはじまっていて。
声を掛けようが身体を揺らそうが関係ないのに、柄にもなく取り乱していた。

両親との特別な思い出なんかはない。
昔は恨んでいたことさえあった。
親子の時間、なんてものが作れるはずもなく、いつも仕事ばかりだった両親を嫌っていたこともあったけど、大人になって思うことは…両親が私を大切に、守ってくれていたことに気付いていたのに。

解っていた、結末ではあった。
もしも両親が組織から殺されなくとも、対立する立場にいる私と向かい合ったら殺し合いが起きてしまう…と。
頭では解っていたはずなのに、心では理解し切れていなかったみたいだ。

大切な人が、またひとりふたりと。
消えてしまった私の心は、ひどく冷め切ったものへとなってしまった。

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