14


ときが経つのは早いものであり、あっという間にFBIになってから2度目の春を迎える時期になった。
両親が亡くなってから組織の動きはほとんど無く、かといってFBIの仕事自体が暇なはずもなかったのだが、今はどちらかと言うと比較的落ち着いている。

真新しいスーツを身に纏い、我らのボスや上層部との話しは終わったらしい捜査官の面々がこのチームにもやって来た。
教育係、という名目で私も部下を数人受け持たされるのだけど…全部赤井さんに任せてはだめなのだろうか。



「まあ…そう不満そうな表情(カオ)をするな、まいか。」

「…不満ではありません。強いて言うならば、不満なのは名前呼びですかね。」

「不貞腐れたような表情をしておいて、まったく、おまえの口はよく回るな。」

「無視しないでもらえますかね。」



例に漏れず、その話し合い(会議)に参加していた赤井さん。
彼からは前以て私も部下を持つかもと訊かされていたし、ある程度の振り分けもされていたのだから、突然決めるなど信じられない、という気持ちはない。
けれどそれでも、あまり他人と関わることを得意としない私からしてみたら、これ以上の部下の増員は不要なものと一切変わりなかった。

会議から戻った赤井さんの表情はなんだか楽しそうで、それを見て「ああ、上層部にはなんの文句も言われなかったんだな…」と納得してしまい、赤井さん曰くの不満そうな表情に。
他人と関わるのは苦手だと言っていたはずなのに、この人は…。



「どうしても無理と弱音を吐くのなら、何人か俺がサポートしても構わんが?」

「…結構ですっ。」



赤井さんを睨んで(いるが本人以外からは睨んでいると判断されていない)いると、赤井さんはひどく愉快そうに「弱音を吐くなら何人かサポートしても構わない」と言ってきた。
赤井さんからの呼ばれ方が名前呼びになっている時点で私たちの距離が縮まったということは解ると思うが、この縮まった距離で赤井さんが得たのは、恐らくは私の扱い方…なのだろう。
でなければ、こういう風に私を挑発するようなことは言わないはずだ。

思わず語尾を強めて言葉を返し、自分のデスクの椅子に座る。
もはや冷め切ってしまったコーヒーを一口すすり、再びそれをデスクに戻した。

コーヒーの代わりに手にしたものは、先日赤井さんから手渡された1枚の紙。
そこにはここへ配属された新入捜査官一部の名前が記載されている。
そこに記載されているのが、私が上司として受け持つ捜査官たちだ。

名前・性別・特化技能など隅々目を通していると、背中にふと温もりを感じる。
誰だ、と言わなくとも解るような人だ。



「一応少なめにはしたんだがな。」

「…この距離、意味はありますか?」

「普通の距離、だろう?…俺はまいかに好意を抱いている、アピールするのであれば普通だと思うが?」

「はぁ…。そうですか…。」



普通の上司と部下、としては少々近過ぎる私と赤井さんの距離。
赤井さんの吐息が耳にかかってくすぐったいとは思うが、特に心が揺れるようなことは一切なく重みしか感じられない。

周りで少しざわつく捜査官たちは存在しないかのよう、周囲を気にしない赤井さんの行動には頭が痛くなる。
「やっぱりあのふたり…」「えー…狙ってたのに相手が如月さんじゃ勝ち目ないじゃない…」「くそぉ…如月もやっぱりイケメンを選ぶのか…」なんて聞こえてくる言葉をすべて否定したい。
それはもう、全力に。



「離し…離れてください。」

「嫌だ、と言ったら?」

「セクハラで訴えます。」

「それは困るな。」



セクハラで訴えるとまで言うと、やっと離れてくれた赤井さん。
けれど赤井さんの表情は楽しそうで、懲りていないことは目に見えて解る。

はあ、と大きな溜息を零しつつ、私は再度冷め切ったコーヒーを飲み、名前などが載せられている書類に目を通した。

ALICE+