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第一印象は、"冷たい人"だった。



「…自己紹介は要らないわ。学校じゃないのだから、互いの紹介は当人同士で済まし、今日は時間内に分け与えられた仕事を処理していくこと。」



淡々とした表情。
そして一切変わることのないトーンの声で、彼女はあたしたちに指示を出した。
無駄を嫌う人間なのか、と思うほどの手際の良さに、驚きのあまり目を見開く。

パンッと軽く音を立てるように手を叩いたあと、「それじゃあ各デスクについて開始して」と言ってこの場を立ち去っていく彼女の後ろ姿を眺めていた。

彼女の名は、如月まいか。
今日からあたしたち新入捜査官一部の上司となった人。
捜査官となって2年目だと訊かされたときは驚いたけど、彼女には2年目だとは到底思わされない威圧感のようなものがオーラとして出されていた。

無表情の他にも、あんまりにも簡単に処理されていく仕事には驚かされる。
その速さは慣れから来るものかもしれないが、彼女の場合、慣れて出来たこととは到底思わされないのだ。

"優秀だから出来る"
あたしには、そうとしか思えなかった。



「ジョディ、これ、お願い出来る?」

「あ…ええ、大丈夫です。」

「それなら、お願いするわ。」



あたしはあたしで任されている書類を片付けていると、不意に上司である彼女から声を掛けられる。
淡々とした表情・声色をみんなは怖いと口を揃えるが、捜査官としてそれは素晴らしいものなのではないか、と思う。

彼女はあたしに書類を見せ、「お願い出来る?」と言った。
チラッと見た限りではあたしでも出来そうだったので、大丈夫だと言えば「お願いするわ」と言って書類を手渡される。

彼女は、冷たい人だと思った。
けれど如月まいかという人間は部下全員の能力を把握し、恐らくはそれぞれの力量に見合った仕事を渡している。
だからきっと…冷たい人、と言うよりは器用貧乏な人、なんだと思う。

自分のデスクへ戻っていく彼女の背中を一瞥し、書類に目を戻した。

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