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「ジョディ、仕事よ。」



あたしが入社して、1か月とすこし。
今日は彼女との仕事らしい。

彼女が例の組織を追い掛けていることは承知のことだし、あたしも例の組織を追いたいが故にFBIとなった。



「今日、元より私の部下である人間のひとりから組織が動くと連絡があったわ。それにあなたが同行してちょうだい。」

「ええ。解りました。」



運転席で淡々と説明を進めて行く彼女。
彼女が言うには、組織でコードネームを与えられていない末端が行う取引が近くであるらしい。

末端と言うのであれば上層部との関係性は望み薄ではある。
けれど組織に関する情報が僅かな中、そんな細くて脆い糸であろうとこちらは利用する他ないのだ。

組織関連の情報が薄いことをあたしが知っているように、上司である彼女は当然のように認知してあるだろうし上も問題視しているはず。
もっと組織に近付くことが出来たのであれば、情報は増えるのに。
頼まれたら潜入でもなんでもする覚悟はあったけど、それはあたしの今の力量にはまったく見合わなかった。



「何かあれば狙撃する。あなたは何もしなくて良いわ。私、射撃は得意なの。」



−−−「知ってるわよ」
その言葉を飲み込んで、彼女の言葉に頷きで返した。

現場に到着してからの流れは、それはもう鮮やかなもので言葉を失う。
狙撃と言っても相手の行動を阻む程度のものだし、取引相手の命を守るための弾丸…計2発ですべてを終わらせた。

鮮やか過ぎる一連の流れを見せ付けられると(本人は見せ付けているつもりはないのだろう)、力量もないのに潜入を任されたなら覚悟してその任務を遂行すると誓っていた自分が恥ずかしくなる。
あたしは、まだまだ新米なのだ。
それなりに狙撃の腕はあるけれど、やはり彼女には敵いそうにない。
あの"赤井秀一"と並ぶ狙撃手と肩を並べるには、あと何年必要なのだろうか。



「行くわよ。」



相も変わらず表情を変えない彼女の心の中がどうなっているのか。
彼女が抱える組織に対する考えは如何様なものなのかは気になるが、それはあたしが口を出せるようなものではない。

けれど組織の末端を狙撃する際。
一瞬だけ見せた、いつもの無表情とは違うあの顔だけが脳裏を過る。

悲しみ。
絶望。
憎しみ。
憎悪。
慈しみ。

様々な感情が捉えられそうな、そんな複雑な表情ははじめて見たものだった。

いつも淡々とした言葉を連ね、無表情で部下に指示を出す彼女。
どういうものかは解らないけれど、恐らくはあたしと同じような苦しみを組織から与えられたのだろう。

前を歩く彼女の姿は、珍しくとても小さなものに見えた。

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