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…何故、このようなことになっているのだろうか。
頭を抱えたくなってしまう。



「申し訳ないが、俺にはパートナーが存在している。だからキミの想いに応えることは出来ない。」

「す、みませ…っ。」



走り去っていく女の子の背中を見つめたあと、肩に回された手を抓って退かせてから張本人を睨み付けた。



「そう怖い顔をするな。」

「…そうは言いますけど、怖い顔にさせたのはあなたですよ。赤井さん。」



そう、ことの発祥は数分前。
赤井さんが新人(らしき)女性捜査官から告白を受けていたときだ。

偶然通りかかった道すがらで、告白というなんとも迷惑なシチュエーションに遭遇してしまった私。
いつでも浮かれた人間はいるものだな、と思いながらすべてが終わるのを待っていたとき、不意に腕を引かれてしまったことから始まりである。

そこからの流れは見事なものだった。
肩へと自然に回された手は異性のものであり、頭上から降ってくる声はこの一年間で聞き慣れたもので。
必然的に近くなった距離から香る匂いすら、もはや私には慣れたもの。

勝手なことを連ね、そして女の子が走り去るのを見届ける彼は最低なのでは。
けれど、動揺のあまりにあの場で否定することが出来なかった私にも非があるのでそれは口にしないでおこう。



「まったく…。赤井さんのせいで誤解されたらどうするんですか。」

「俺は別に構わん。事実にしたら良いだけのことだろう?」

「パートナー、とかいうやつですか?私にはその気がないので誤解されてしまっては困る、と言っているんですけど。」

「俺にはその気はある。」



…さっきから言葉のキャッチボールが上手く出来ていない気がする。
否、まったく出来ていないのだ。

例え赤井さんにその気があろうとも、私にはまったくその気はない。
好意の"こ"の字も出て来ないこの状態で赤井さんのパートナーになりたいなど、誰が思うだろうか。
むしろ、さっきの女性捜査官に押し付けてやりたいくらいだ。

「はぁ…」とあからさまに溜息を零してみたところで、赤井さんは気にも止めていないのか素知らぬ振り。
パワーハラスメントで上に訴えてやろうか、無意味だろうけど。



「しかし、キミに俺が居るとなるとキミには好都合なんじゃないのか?」

「…何故です?」

「キミもたくさんの男から好意を寄せられているんだ、それはピタリと止むだろう。そうなると、互いに都合が良い。」

「…ふむ。」



赤井さんを睨み付けていると、赤井さんからもっともな意見をもらった。
確かに、赤井さんと競う人間などいろいろな意味を含めて居ないだろう。
現に赤井さんが私に好意を抱いていると噂になったときタイムロス(告白)が前よりも減ったし、すこし前に「まだ赤井さんと付き合っていないのなら…」というもの以外はまったく言い寄られない。

これを交際しているものとして噂されたなら、タイムロスが減る可能性がある。
それは確かに私には好都合な話しではあるが、それでは赤井さんにはなんのメリットもない…はず。

訝しげな顔をしていたからなのか(実際には表情は変わっていない)、赤井さんはフッと小さく笑ったあと「俺はまいかのことが好きなのだとおまえに何度言えば良い?」と言ってきた。
つまり、交際事実だけでもメリット…ということなのだろうか。
赤井さんは言葉が無さ過ぎて読めない。



「…好きにしてください。」

「ああ、好きにさせてもらおう。」



この際、もうなんだって良い。
赤井さんや他人に何か言われたとしても相手にしなければ良い話だし、このことでタイムロスが無くなれば私は構わないのだ、好きにさせておこう。

私と赤井さんの複雑な関係が始まった。

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