19


任務の内容は簡単なもので、はっきり言ってしまえば俺とまいかだけでも終えられるような簡単な仕事だった。
それでも簡単と言い切れるような内容ではないのだが、そんな任務に各自部下をひとりずつ同行させたのには、それこそ簡単な理由がある。

未だ現場慣れしていない部下を、現場に慣れさせるため、だ。

だからこそまいかは自身の部下であるジョディを、そして俺は部下である彼女を同行して二手に分かれて狙撃箇所(ポイント)を狙い待ち構えている。
緊迫した空気は部下から流れて来るものなのだろう、今さらそれに流されるほど緊張するタマではないが、あまり良い空気とは言えない。

まあ、部下の扱い方は俺もまいかも同等に不器用で、下手だ。
もしまいかが社交的な性格であれば何か変わったかもしれないが、放任主義とも言えるまいかの教育方針には俺が言えた義理ではないと自覚しつつも、多少の不安は募っていく。



「赤井さん、あの、わたしは何を…。」

「見ていれば良い。今はこの場に慣れることを優先的に考えろ。良いな。」

「は、はいっ。」



何度か紡がれる会話も、特に続くことなくすぐに終えてしまう。
あまり良いとは思えないのだが、こればっかりは仕方のないことだろう。
ときたま通信機から聞こえてくるジョディとまいかの会話だって、俺たちと似たり寄ったりだった。
まあ、ジョディの方がまだ慣れているのか良い意味での緊張感があるが。

しばらくすると、狙撃箇所に標的(ターゲット)がやって来た。
スコープですこし外れたところを確認すると、まいかが張っていた狙撃箇所にも標的が現れたので、今回はまさに読み通りだった、ということだろう。

殺しはしなくてもいい。
けれど相手も相手なので、それなりのことは踏まえて射殺許可は得ている。
まいかは相手をどうするのだろう、とふと考えながら引き金を引き、標的の手足を素早く狙撃して攻撃を封じた。

それと同時に、"ピピピッ"と通信機の通信ボタンが押された音が耳に届く。
それは部下の彼女も同じだったようで、俺と同時に通信を繋いだ。



『赤井さん、そちらは?』

「手足の動きを封じた。」

『そうですか。こちらもです。あとは控えている者に任せますか?』

「ああ。」



要件のみを伝え、切れる通信。
どうやらまいかも俺と同様に、相手の息の根を止めはしなかったらしい。

ふと頭を過ぎったのは、まいかの両親。
ベルモットたち組織の人間に追われ、最終的に自害を選んだふたり。
両親の死を目の当たりにしてから、そう言えばまいかは人を殺めただろうか。



「赤井さん。」

「…なんだ。」



そんなことを思いながらライフルをギターケースにしまっていると、部下から名前を呼ばれる。
特に動きを止める必要もなさそうだったから、声だけの反応だったが。



「赤井さんと如月さん、お付き合いされているんですよね?」

「…そうだが。」

「如月さんって、恋人の赤井さんと話すときも敬語なんですね。すこし、びっくりしちゃいました。」

「…ほぉ。」



ライフルをしまったギターケースを背負いながら、彼女からの質問を淡々と受け答えしていく。
任務に必要のないプライベートな質問はよせと咎めても良かったのだが…。
そうか、なるほど。

それ以降お互いに会話を続けることもなく、「行くぞ」と告げて集合地として指定してある場所へと向かいながら頭の中で先ほどのことを考える。

確かに、多少無理矢理ではあったが恋人同士とあらばよそよそしい態度は見慣れないものがあるのだろう。
ましてやここは、アメリカだ。
日本よりもスキンシップの激しい国で育った人間であれば、それなりにそれを不思議なこととして見るのだろう。

もしかしたら、まいかのおもしろい反応が見れるかもしれない。
そう思うと自然と口角が緩み、口端が上へと上がっていく。
まいかはこの話しをしたら、いったいどんな反応をするのだろうか。

ALICE+