20
ふと目が覚めたら、外は真っ暗だった。
時間を確認しようと携帯に手を伸ばしてみたが、それは音楽が小音で流れており熱を含んでいて使えそうにない。
いつ音楽を流したかは覚えていないが、耳に届く洋楽はお気に入りのもので間違いないので、この折りたたみ式にダウンロードした曲なのだろう。
寝ぼけているのか、そんなことしか頭が回らず、ふと開けっ放しにしていた窓の外に視線を向ける。
外は未だに暗くはあるが、どこからか光も見えてきているからそろそろ朝を迎えようとしているんだろう。
元より不規則な仕事ではあるが、今日はそんなに特別朝早くからの仕事が入っているわけではない。
毎朝迎えに来る部下の顔が思い浮かび、自然と笑みがこぼれた。
自分はまだ、24。
そんな若い歳で部下を従え、そして任される仕事も危険なものが増えていった。
今の俺の名は…ああ、そうだ、昨日で終わったからあれはもう、存在しない。
「ふぁ…。」
あくびをひとつこぼし、ベッドから起き上がって背伸びをする。
どうせ今から二度寝したところで中途半端な仮眠になるんだ、それならばこのまま起きていた方がマシだろう。
首を左右に傾げながら骨と骨の関節を鳴らしつつ、渇いた喉を潤すために冷蔵庫まで足を運ぶ。
その途中、いつも目に止まるのは懐かしい時代の…愛しい人との写真。
互いに写真を撮ることは少なく、テレビの横に飾っているそれが唯一まともと言える写真だろう。
違う人間に成りすましていた昨日まではこの本当の家に帰宅することなどなかったから、ずいぶんと久しぶりにその写真を見たような気がした。
まあ、実際に久しぶりなのだろうけど。
「変わった、な…。」
写真を見て思う。
自身も、自分が置かれている周りの環境も、地位も、なにもかもの…すべてが。
苦しかった金銭面ですら、今ではこうしてなかなか良い値段のするマンションを購入して暮らせているくらいには充分に受け取っているし、異性の扱い方も変わったような気がする。
だけど、変わらないものがひとつだけ自分の中に存在していた。
それは、昔から想い続けている…別れた恋人のこと。
今でもたまに探しているのに、見付けることも出来ずにいる。
未練がましいと思う。
けれど…どうしても忘れられない。
「ああ、周りはどんどん変わっていくのに…自分は変われない。」
世界も時間も、嫌というほどどんどん変わっていってしまう。
あの別れから既に5年は経過していることは、なんとなく信じ難く思うほどだ。
けれど、世界も時間も、嫌と思ったところで進んでいくのが世の理。
すこしずつ歳を重ね、すこしずつ死への道へと争う手段もなく進んでいく。
神様、もし、この世にいるのであれば。
死ぬ前にまた…会いたいと願うことを、許してください。