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「Oh!綺麗ね!」

「季節外れにもほどがあるわよ…。」



休暇にやって来たのは、綺麗だと地元で評判らしい海辺。
けれど今は夏も終わりにさしかかり、肌寒さを感じさせる気温だからなのか人はまったく居合わせていない。

海を見て騒いでいるのはジョディたちだけで、当事者である赤井くんはどちらかと言えば"無"を貫いている。
恐らくは彼も、この時期の海は想定外のことだったんだろう。

肌寒さがあるので、当然みんな水着なんてものは持っていない。
ただ海水に足をつけて遊んでいるだけであって、子どもたちと海に遊びに来た気分だけが与えられる。
もういい大人なのに、どうしてそこまで無邪気になれるのか…。

そうは思うけれど、きっと、これが最後だから無邪気になれているんだろう。
これからはFBI本部から拘束されることも増えるし、組織が現れたのであればそれぞれが特化した言語が通る各国に飛び回ることだってあるはずだ。
そうなったら、もう"無邪気に遊ぶ"なんてこと不可能になるだろうから。



「いいのか、おまえは。行かなくて。」

「…いいわよ、そんな気力はないわ。」



男性陣によって用意されたビーチパラソルの下に敷かれたビニールシートに座って荷物番をしていると、同じく荷物番をしていたであろう赤井くんに問われる。
自ら彼らとの交友関係を広げようと参加したはずなのに、いざとなったら(今さらではあるが)人見知りが発揮され、あの完成した輪の中に入ることをどうしても躊躇してしまう。
この面に関して、本当に変わらない。

周りは周りで私と赤井くんを気遣っているのか知らないけれど、こちらには特に触れもしないで遊んでいる。
今はどこから出したのか解らないボールを持って、ビーチバレーならぬビーチドッジボールをしていた(なぜ)。



「来月の中旬から、日本へ行く。」

「それは全員、かしら?」

「いや、まずは俺だけだ。奴らは今日本に居るらしいからな。そこから潜る。」



特になかった会話は、赤井くんからはじめられた(内容は仕事のことだけど)。
どうやらもう、彼のスケジュールは決められているらしい。

彼のことだから、きっと上手い具合に組織に潜入して、そしてあっさりと溶け込んでしまうんだろう。
必要とあれば、人も殺めながら。

そして、このことを訊いて憶測はあるけれど、彼がなぜこのような場を設けようとしたのか理解出来た気がする。

今まで私にプライベートなことで話し掛けて来ていたのは赤井くんただひとり。
つまり、赤井くんが日本へ行ってからは仕事としての関わりしか持てていなかった目の前の彼らとのやり取りが増える。
そのときに今までの隔たりがあれば、もちろん(私はともかく)部下はやり辛いと感じてしまうだろう。

なるほど、よく考えられている。
冷静な頭ではそう思えるけれど、私を気遣ってのことであろう赤井くんの行動に胸が温かくなってきた。
ぽかぽか、ふわふわ。
嫌いな擬音ではあるけれど、今の私の心中はまさにそんな感じだった。

…私は、だいぶ赤井くんに絆されてしまっているような気がする。

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