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私は対組織メンバーの一員として動くことに対して本部に言い渡した条件の手続きを済ませ、対組織専用に設けられた一室へと足を進める。

会議だから急げと言ったのに、あそこの捜査官は仕事が遅過ぎて腹が立つ。
私だけで行えることならば自らでやったのに、あのせいでタイムロスだ。
それでも自身の表情筋が動いていないことが解るから、恐らく腹立たしいと思っているのは頭と心だけなのだろう。

私が本部へ交換条件として与えたのは、私という人間のデータ改ざんだった。
証人保護プログラムとはまた別の、ただのデータ改ざんだ。



「失礼します。」



到着した対組織専用の一室にノックをしたあと入室すると、そこには既に選ばれたメンバー全員が揃っていた。
対組織メンバーのトップ、ジェイムズは私を一瞥したのち、静かな声で「それでは会議を始める」と呟く。

空いていた席…赤井くんの隣の椅子に腰掛け、ジェイムズから対組織用の計画が言い渡される。
赤井くんから訊いていたように、まずは各国で悪の手を出している組織の中に赤井くんが潜り込み、そこから本拠地を洗い出して私たちもその本拠地として該当する国へと渡る…らしい。

手続きが面倒だから、願わくはここ、アメリカであればいいと願うけど。
まあ、ことはそう簡単には進まない。



「何か質問はあるかね?」



最後に、ジェイムズから質疑応答の場を設けられたが、誰もそれに対して反応することはなく…会議が終えた。
ジェイムズが席を立ち上がると同時に、数人も席から立ち上がってこの場から立ち去ろうとしている。

私とて質問は特にないけれど、もし質問があるとするのなら…それは、この計画にちらほらと見え隠れする穴に対するリスクくらいだろうか。

スパイ…言わば、ノックとして潜り込む捜査官が赤井くんであることに対してはなんの問題もない。
彼は私と同様に、必要とされたなら迷いもなく人も殺めるだろうから。
そこに戸惑いがある人間だったとしたら異議を申し立てたところだけど。

この計画に見え隠れする穴。
それは、ジェイムズの言葉の節々に感じさせられた、"他人任せ"と感じられるものから広がっている気がしてならない。

赤井くんが居ることが前提とされた計画は、赤井くんを信用しているからこその言葉だと解る。
けれどもし、赤井くんが居なければ…?

赤井くんとて、ひとりの人間。
ミスをすることだって当たり前にある。



「…居なかった場合の…消えた場合の可能性からの機転は、今のままでは何も考えつかないわね。」



もし、赤井くんが消えてしまったら。
もし、赤井くんがミイラのように組織に取り入られてしまったなら。

そこから、みなが頼りにしている鍵(キー)は…瞬く間に消失。
もしくは、敵の刃となってしまうのに。



「(いえ、それを考えることは愚問なのかもしれないわ。私が…彼を周りのように信用出来ていないだけのことね。)」



万が一のことを考えることは大切だ。
けれど、味方のことをここまで疑い計画することは、果たして意味があるのか。

雑念に近い思念を振り払い、私も退室するみんなに視線を向けて席を立つ。



もう誰も、周りから消えないでほしいと願う心はなんと言う感情なのだろうか。

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