ふたりの関係


「そう言えば今まで訊けなかったけど、シュウとはどこまで進んでいたの?」



ある日、仕事を終えてバーに行くと、ほどよくアルコールを摂取したジョディにとても軽い調子で訊かれた。

思いもよらない質問に対して、思わず一瞬だけ目を見開いてしまう。
まさかそんなことを訊かれるとは、予想にもしていなかった…。

答えを出さない私を急かすように、ジョディは「ねぇ」と私に返事を促す。



「…どこまで、と言うのは?」

「恋人同士がすることよ。」

「…ジョディ、あなたもそんな下世話な話しをするような人だったのね。」



絞り出すように出た言葉は、ジョディが言っている"どこまで"の境界線に対する問い。
すると一呼吸置く間も無く、「恋人同士がすること」と言われた。

まあ、つまり。
幼い頃の恋愛で一通り経験した、あれらの進み具合…と言うことだろう。

まさかジョディからそんなことを訊かれる日が来るなんて、思ってもみなかった。
女子は恋愛ネタが好き、と言うのは昔耳にしたことがあるけど、それは何年経っても女子トークの永遠のテーマなんだろう。
はっきり言って、私はそう言った浮ついたような話題は不得意な方だ。



「素朴な疑問よ?あなたたち、いつもミステリアスで何も見えなかったんだもの。」

「…そうかしら。結構ミステリアスなんかでは無かったと思うけど?」



ジョディが相手となれば、今ではもう、軽く流すことも難しい。
遠慮があった時代であれば流して即終了であろうこの話しも、今や無遠慮と言えるこの関係では終わりが見えない。

…でも、だけど。
そう言えば確か、赤井くんはキスもセックスも…私に何かを求めて来ることはなかった。

同じ場で酒を飲むこともあったし、そんな雰囲気になりかけたことも…正直な話、ある。
でも、例えそんな空気になろうとも、赤井くんは決まって手を出さなかった。

その行動はまるで、「気持ちが伴わない今では意味がない」と言われているようで…。
今考えてみると、それはなんとなく、むず痒いものに感じてしまった。



「…特には何も。一緒に飲んでただけ。」

「飲んで終わり!?シュウって男なの!?」



特に何も無かったと伝えると、ジョディは食い掛かる勢いで私に詰め寄る。
今なら犯罪者が取調で警察に詰め寄られている気分も、解る気がした。
それほどまでに、ジョディは勢いがある。

ここまで言われてしまうと、赤井くんには申し訳なくなるが…。
何も無かった、というのは事実。
実際にあったと言えば、仮初めの関係を始めた頃に同室となったホテルで寝たくらい。
その日だって、ただただ普通に過ごした。

ジョディに「私たちは初めから仮初めの恋人同士だったんだから、何もなくても不自然じゃないわ」と言えば、きっと会話は終わる。
でもそれを言ってしまうと、それはそれで長くなるように思えて仕方がない。
喉元まで出かかった言葉を久しぶりに飲んでいるヘネシーとともに飲み込み、ひとり「シュウって男じゃないわ!」と叫んでいるジョディを眺めることに徹した。

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