飲みに行きます


赤井くんと別れ、いよいよ赤井くんが組織に潜入するために日本へと向かって数ヶ月。
今まで赤井くんのせいで精神的に騒々しかったせいか、とても静かに感じる。



「…ジョディ、今日、一緒に飲まない?」

「え?」



静かなのが寂しかったのか。
もしくは、前に気を使ってもらったものの、周りとの距離が縮まらないことが引っ掛かったのかは私にも解らない。
だけどふと、ジョディを酒に誘っていた。

FBIの女性捜査官は、数少ない。
男性捜査官とサシ飲みはおろか、もちろんグループ飲みも抵抗があった。

それならば女性捜査官で私の部下であり、中でも1番信用が置けて1番成長を期待できるジョディを、と結論に至ったのだ。
ジョディであれば何度か同じ捜査にも出たことがあるから、ふたりでも大丈夫だろう。



「………いや?」

「そんなことありません!…ただ、あたしが誘われるとは思わなかったので…。」

「…なら、行くわね。」



そんなこんなで、ジョディとのふたりでの飲み会が決まった。







やって来たのは、私がよく来ていたバー。
此処へは赤井くんもよく来ていたから、他のところでも良かったのだけど。
ジョディが「オススメのお店で」と言うものだから、なんとなく訪れた。

それにしても、なんと言うべきか。

ジョディとは他の捜査官よりも親しくなれたと思っていたけど、どうやらジョディはそうは思ってくれていないらしい。
僅かに伝わる緊張感は、私とふたりきりだからこそ生まれているのだろう。



「…別に、緊張しなくてもいいのに。」

「え…?」

「私、人付き合いが苦手なの。だから壁があるように思われやすいけど、上司だとか部下だとか…必要なラインさえ解ってもらえたら別に何も気にしないわ。」



まるで独り言のようにジョディに対して言葉を連ねると、ジョディは予想通り困惑したような表情を浮かべていた。
まあ、普通なら酒の場で急にこんな真面目な話しをされても困るだけよね。

でも、私も悪い。
もっと直接的に言えば良いのに、私は遠回しなことを言って、ジョディを困らせている。
言葉と言うものは、本当に難しい。



「………だから、もっとフランクに話してほしいの。赤井くんに対してのように、畏まらなくて、気軽に話してほしいだけなのよ。」



酒の力…と言うものなのか。
いつもより、直接的に言葉が出せている。
とは言ってもまだ一杯目で、酔いなんてものは全然入っていない。

場の空気に流された、とでも言っておこう。
その方が、私もまだ納得することが出来る。



「私、意外とあなたを信用しているの。だからジョディ…あなたも私のことをすこしでも良いから信用してほしい。」



ライの入ったグラスから視線を逸らし、まっすぐとジョディを見つめる。
するとジョディはすこし困ったように笑ったあと、「変な人ね」と言った。



「あたし、最初から信頼してるのよ?そんなにまっすぐ言われたら断れないじゃない。」



そう言って浮かべられたジョディの表情は、困惑もありつつ、歓喜も含まれているような笑顔に見えた。
その笑顔に安心して、合わせ辛くなった視線を誤魔化し、すぐにグラスへと視線を戻す。

それから言葉を交わすときには、ジョディも敬語を失くし、なんとなくさっきまでの緊張感もなくなったように思えた。

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