01
始まりは、一本の電話だった。
「え…?」
それは私の部下からの電話で、内容は今ひとつ信じ難いようなモノ。
「赤井くんが…失敗した?」
赤井くんが組織へと潜り込んでから、だいたい三年が経過した。
着々と組織での地位を確立していき、コードネームをもらっていた赤井くんが失敗するだなんて、俄かに信じ難いことではあるけど、それは確かな事実。
なんでも部下の話しによると、赤井くんは組織の中心とも言えるような存在であるジンとの任務をこじ付けたらしい。
けれどそれは新人捜査官の小さな親切心と言うミスから、チャンスが一転。
失敗に終わったと言うのだ。
赤井くんは新人捜査官を責めることもなかったと報告を受ける。
それが優しさと思える人物は、恐らくここには居ないだろう。
自責の念に駆られるのが目に見えていた。
彼も中々に酷いことをする、とは思うが、その新人捜査官の自業自得と言って仕舞えばそれで終わってしまう。
「それで、それからの動きは?」
『全員無事、逃亡したようです。』
「………そう。」
どうやら、赤井くんを含めた捜査官は無事に全員逃走することが出来たらしい。
それは良いけれど、赤井くんが組織に潜入するために関係を築いたあの彼女…。
彼女は、どうしたのだろうか。
赤井くんのせいで命を追われることにならなければ良いけど…とは思うが、結局騙されたとは言えども彼を受け入れたのは彼女自身なので、私にはなんとも言えない。
末端の人間だから、せめて上手く生き延びることが出来たら良いんだけど…。
「それでは、新たな計画を立てる。」
赤井くんの失敗により、私たちも計画の組み直しが企てられた。
とは言っても、今まで通り影ながら追うことしか出来ないことは、安易に想像出来る。
それしか、私たちに術はない。
部下には今まで通りに監視を命じた。
何かあれば私だけでなく、私の上官たちにも連絡を入れるように指示もして。
「…すまない。」
「それ、なんに対しての謝罪?」
会議が終わったすぐあと、赤井くんも本部へと姿を現した。
どことなく浮かない顔をしている彼は、一言謝罪を入れてきたのだけど…。
つい、意地の悪い答え方をしてしまった。
なんに対しての謝罪かと訊けば、赤井くんは困ったように小さく微笑んだ。
「おまえも言うようになったな。…いや、それは昔からか。」
「そうね。私は任務に失敗して、のこのことここへ戻って来るような男性とお付き合いした覚えなんてないわ。赤井くんはもっと…執着すると思ってた。組織に。」
そこまで言うと、赤井くんはぐっと押し黙ってしまった。
まさにぐうの音も出ない、と言うのはこのことなのだろう。
ジョディや私のように、組織に対してそこまで執着する理由が彼にはない。
だから今のように戻って来たところで何も咎めるところなんてないのだけど…。
どうしてだろう。
彼には理由は解らないにしろ、組織に執着するものだと思わされていた。
まあなんにせよ、今回の計画は失敗。
すべては何もなかった白紙の状態に戻る。
「赤井くんのミスで計画の練り直しね。」
「…悪かった。」
「別に責めてないわよ。赤井くんを責めたら新人捜査官を責めることにもなるし、だからホラ、シャキッとして。」
何処と無くあったのは、赤井くんの背後から表れる負のオーラ。
あまり気にしていない風を装ってはいるけれど、やはり彼も人の子、と言うこと。
少し責める言葉を連ねれば、それは少し大きなものになった。
…ちょっと、意地悪し過ぎたかしら。
まあ今まで振り回されていたことを考えてみたら、かわいいものかもしれない。
たまには赤井くんを落ち込ませてみても、バチは当たらないわよね。