05
最近発生している連続通り魔の男が、ベルモットの変装であることが私の部下の報告により判明された。
私はそれをすぐさま上に報告し、今日にでも赤井くんとともにベルモットを追い、捕まえる方向で動くことになった。
何度も言うようではあるけれど、上は組織を甘く見過ぎていると思う。
あのベルモットがそう簡単に我々FBIに捕まってくれるとは到底思えない。
まあ、もしかしたら上はそれを承知で言っているのかもしれないのだけど。
何にせよ、本当に…上は簡単にモノを言う。
プロファイリングの捜査官、そして赤井くんによって編み出された箇所に包囲網を広め、ベルモットを追い込んで行く。
流石はFBI、と言ったところだろうか。
ベルモットも簡単に潜り抜けられないのか、追い込まれてくれた。
あまり組織にFBIとして顔を晒したくない私が現場ですることは、私の部下はもちろんのこと、赤井くんの部下への指揮。
直接的な現場の指揮は赤井くんが取るが、部分的な…それこそベルモットの逃走ルートなどを絞り、部下を配置するのが現場には出ない今回の私の役目である。
様々な可能性を編み出し、ベルモットをすぐそこまで追い詰めたのは良いものの、予想外のアクシデントが発生したらしく結局はベルモットを取り逃がしてしまった。
どうやら包囲網を敷いていたにも関わらず、無知な日本人の子どもが居たことにより、銃撃戦の可能性が高かった今回は一般人の命を優先させることになったのだ。
惜しいことをした。
けれど子どもが現れなくとも、結果はこうなっただろうとも思えたのは恐らく、私だけではないのだろう。
無線から聞こえる赤井くんの声も、どこか理解しているような声色だった。
「…ん?」
FBIとバレないように、と言うことで私は単独行動を取っていた。
部下の車を使い、車の中でパソコンと戦っていたのだけれど、それを片付けていると女の子をおぶった男の子を見掛けた。
まさかとは思うけれど、彼は…話に出ていた日本人の子どもではないだろうか?
「あなたたち、どうしたの?」
「っ!?」
それは、そう。
例えるのなら、ひとつの好奇心。
あの場に居たのなら、ベルモットと遭遇していたとしてもおかしくはない。
それなのに生きている。
会っていないだけなのかもしれないけれど、もし遭遇していて、なおかつ彼らは殺されずに生きているとしたら…。
興味は、ある。
車から降りて普通に話し掛けると、女の子を抱えた彼は警戒心たっぷりと言わんばかりの驚いた表情を私に向けてきた。
その目はさしずめ、敵か味方かを見分けようとする目だ。
「ここは危ないわ。送りましょうか?」
「…いえ、俺ら大通りでタクシー拾って帰るんで、大丈夫です。」
「そう?気を付けてね?」
送りましょうか?
そう言うと、彼の目は警戒心が強まったようにも見えた。
タクシーを拾って帰る、と言う彼を深追いすることなく、その背中を見送る。
けれどその背中は少ししてくるりと振り返ったあと、私と視線を重ねた。
「あなたも危ないですよ。通り魔が出ると言われているこの場に居ると言うことは、警察か通り魔の仲間…。俺を殺すのなら、通報しといてあげますね。」
「…あらあら。随分と賢いのね。安心して、あなたたちは殺さないわよ。」
「………。」
正直、少しだけ驚いた。
この付近に通り魔が居るとして、警察か通り魔の仲間かどちらかの人間だとすぐに思える頭の回転の速さに。
そして、その頭の回転を出来うる度胸に。
ただの子どもかと思ったけど…。
賢い子どもも居たものだ。
ほんの少しの好奇心で、私がどっちつかずな答えを口にすれば、彼の眉間の皺は中央にギュッと寄せられる。
そんな私に対して何か言いたいことはあるのだろうけど、どう考えても不利な立場でいることを理解したらしい青年がそれ以上何かを言うことは無かった。
子どもは嫌いな方、なのだろうけど。
彼のように賢い子は嫌いじゃない。
いつかグリーンカードを取得して、FBIに入ってくれないものかしら。