07


表立って取り締まっている日本警察部署には黙って、数人のFBIは潜入する。
と言っても、日本の公安などはFBIと同様に組織に潜り込んでいる可能性はあるので、何も知らないのは公安以外の警察組織。
その無知な警察組織に察されないよう、私たちは日本へと飛び立つ。

公安にだけでも話しが出来たらスムーズなのだろうけど…。
どうにも、雲行きが怪しい。



「…もう一度言ってもらえる?」

「組織に潜り込んでいた頃、公安のネズミが組織に公安とバレて自殺してな。その際その場に居た俺が自殺した公安のネズミと親しい人間に俺が殺したと怪しまれてしまった。」

「はあ…。」



赤井くんの話しを聞いて、思わず頭を抱えてしまう。
この話しがされたきっかけは、私が公安警察にだけでも話しを通したらどうか、と提案したことからである。

それにしても。
その親しかった人間がその人物同様に公安のネズミかどうか、確証が無いと言うのに何を考えて無理だと言うのだろう。
まあ、組織に潜り込んでいた赤井くんが言うのだから、その人間も公安のネズミであることは十二分と考えられる。

でも、言えばよかったのに。
その人物を殺したのは自分ではない、その人自身なのだと。



「…彼が来た足音で、自殺した奴は自ら銃の引き金を引いた。それを知ったら彼は…白か黒かは知らんが、恐らくすべてを受け入れられないだろうな。」

「……私、口にしていたかしら?」

「おまえの考えていることは解る。」

「…ああ、そう。」



赤井くんが殺したわけじゃない、と言わなかったのは何故か。
そう考えていると、赤井くんは黙っていた理由を私に教えてくれた。

いろいろと不服に思うし、赤井くんの考えはそれだけじゃないとも思うけど、今何かを言ったところで話してくれるとは到底思えないし、私にはまったく関係ない。
今はそんなことを考えるより、私は見送る彼らを日本へ向かう手続きの仕方を、改めて考え直さなければいけないのだ。

ビザ等は最悪、上層部に任せれば良い。
他にも潜伏先や何やらまで、今回付いていかない代わりに探すよう頼まれたのだ。
これらを全うしなければならない。



「ところで、赤井くん。」

「なんだ。」

「その手にしているものは、何?」



やるべきことはそう簡単に減ってくれない。
それに頭を抱えながらも、先ほどからずっと気になっていた物を指差し、赤井くんになんなのかと問い掛けた。

明らかに指輪か何かが入っているような小さな箱を、隠すことなく彼は手に乗せて。
そんな状態でよく話しが出来たものだ。
誰に送るかは知らないけれど、あんな話しを聞いていたアクセサリーを受け取る人物はムードも何もない。
まあ、受け取る本人が聞いてなければそんなもの、関係ないのだけど。



「これか?これはまあ…。」

「っ…!」



赤井くんの口から小さく呟かれた、私の問い掛けに対する答え。

−−−離れさせないようにする"首輪"だ

そう言われてその箱を手に乗せられてしまえば、私も思わず目を見開く。
首輪だなんて悪趣味ね、とか、そんなもの要らないわよ、とか。
言いたいことは頭には並んで行くのに、言葉としてはまったく出て来てくれない。

赤井くんは私にそれを渡して満足したのか、背を向けて何処かへ向かってしまった。
そのあまりにも誑かし野郎のようなスマートな動きは、私を驚かせるのに十分過ぎる。

だから、そう。
これは驚いただけであって、照れとか歓喜とか、そんなものじゃない。

跳ね上がるように刻む鼓動も、顔に感じる熱も、すべて嘘だと思い込みたかった。



本当、日本へ行く前に、余計なことをしないでほしい。

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