08


とうとう彼らは、日本へと旅立った。
日本へ赴いて早一ヶ月。
特に組織の動きは無かったのか、未だ特別な報告は私に届いていない。

あと二ヶ月もすれば、赤井くんが言っていた時期に突入する。
つまり、赤井くんがFBIに戻ってから一年が経過しようとしている、と言うこと。

あの組織から、よくそこまで上手く逃げ延びているなと心から思う。
裏切り者、疑わしき者は即死刑。
そんな方針の彼らは恐らく、血眼になって赤井くんのことを探しているのだろうけど。
不思議と、FBI本部に何かを仕掛けて来ることはなかった。



「如月さん、これ、例の書類です…。まとめておきました。」

「…ああ。ありがとう、キャメル。」



こちらでも組織を追うためパソコンと奮闘していると、不意に出て来た書類の束。
ちらりと視線を向ければ、そこにはデカい図体には似合わずどこか怯えたように縮こまっているキャメルの姿があった。

彼も一応、新任捜査官ではあれど組織対策で組まれたチームのメンバーではある。
そのため赤井くんが潜入していた時期に近くで捜査し、動いていたはずだけど…どうしてこんなにも小さくなっているのか。

…ああ、そう言えば。
赤井くんが失敗とされた事件の引き金を引いたのは、キャメルだった。
なるほど、それで組織のことは0スタートに戻り、こうやって1から組み直して捜査している上司の赤井くん、私に見せる顔が無い、と言ったところで縮こまっているのだろう。

別に、私にまで畏まらなくても良いのに。
赤井くんと同等の地位とは言えど、私の上司は今も赤井くんであり、彼は赤井くん直属の部下なのだから。



「早くて助かるわ。」

「いえ…!自分の仕事ですので…!」



少しのフォローのつもりで、慣れない笑みを浮かべながら書類を受け取る。
するとキャメルは少し安心したような表情は浮かべていたけど、やはりどこか浮かない。

私も部下へのフォローは下手な方だけど、赤井くんも赤井くんだと思う。
これ以上私が何かをしたところでキャメルは気にするのをやめないだろうし、多少気分が戻っただけ良いとしようかな。

それに、私も私でやることがある。
未だにアメリカでも動きを見せる組織の尻尾を掴んだので、単独ではあるけれど今から向かう場所があるのだ。

情報によれば、そこには下っ端がほとんどで集まるらしい。
けれどひとり、コードネーム持ちが現れるのだとも耳にした。

組織同様、黒に染まった組織との取引を行うらしいので、人命は優先させない。
上司は特にそんなことを言ってはいないのだけれど、こちらからしてみたら黒が黒同士で相殺し合うのならそれは自業自得としか思えないので、それならば、とコードネーム持ちを捕縛することを優先させた。

ライフルをしまい込んだギターケースを肩に掛け、椅子から立ち上がる。
そのときふと目に止まったのは、先ほどからやはりどこか浮かない顔を浮かべて空気も淀んでいるキャメルの姿。



「キャメル、今から組織の取引に向かうからあなた、車出してくれる?」

「え…っ!?」



室内に響き渡ったのは、私だけの声。
少ししたあとに周りがざわめきだした。

こうしてキャメルに声を掛けたのは、自分でも予想外のことでしかなかった。
けれどどうしてだろうか。
赤井くんが引き金となって、私を周りの人間と近付けようとしたときから。

人に近付こうとする自分も、出て来た。

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