11


「安室透…29歳。職業は探偵…ね。」



あの日から数日が経過した。
組織の人間を調べるのはそう簡単なものではなく、赤井くんに頼んでバーボンに関する大まかな情報を教えてもらった。

バーボンの名前は、安室透。
組織では情報収集に関してで動いていたらしく、なかなかに優秀らしい。
それ以上は彼の秘密主義ということで、赤井くんにも解らないらしかった。

でも、名前が解ったのなら。
様々な手を使って得たものは、表向きで使われている彼の職業。
案外地味な表の職業だな、とは思うけど、情報収集に秀でていて動いていた、となれば納得の職業なのかもしれない。
探偵であれば、他人の情報を集める行動を取っていても依頼だと言えば収まる。



「(まあでも…彼とは違いそうね。)」



安室透…バーボンが降谷零なのではないか、と、その似過ぎている容姿のせいで疑いは抱いたけれど、名が違うのならそれはただの疑い過ぎた故の人違いだ。
赤井くんはバーボンが組織に噛み付こうとしているネズミだ、と疑っているから、偽名を使っていないのだと断言は出来ない。
けれど何にせよ、今は関係のないこと。

それにしても、赤井くんの言う通り、バーボンはかなりの秘密主義者らしい。
これ以上の情報なんてまったく出てくることがなく、バーボンについての捜査は行き詰まってしまった。
他の組織の人間も炙り出せないかと思っていたけど…甘く見ていたらしい。



「如月さん、コーヒーどうぞ。」

「…ああ、ありがとう。」



クソ、と思わず声に出さず言葉が漏れ、舌打ちまで出て来る。
そんなときにコーヒーが差し出され、ふと顔を上げると初期からの私の部下が困ったような表情でコーヒーを乗せていたであろうトレンチを持っていた。

彼は、情報収集に長けている。
そんな情報収集に長けている彼をここに残したのは、私とともにアメリカで捜査をさせるためでもあった。

置かれたコーヒーを手に取り、一口飲む。
彼は困ったような表情を浮かべたまま「俺に手伝えることがあったら言ってください」と言ってこの場から離れて行った。

…そう言えば、彼のことをともに捜査するために残したくせに、ここ最近は私だけで捜査をしていたような気がする。
バーボンのことを探るばかりで、ここ最近はまともに寝ていなかったことも思い出した。
ここは、彼に任せるか。

書類を持って彼の座るデスクに向かい、その横に邪魔にならないように書類を置けば、今度は驚きの表情を向けられた。



「ちょっと休んで来るわ。ここはあなたに任せるから、よろしくね。」

「…!はい!俺に任せて休んでください!」



嬉しそうに、にっこりと向けられた笑顔を見て、最近は人のことをまともに見ていられなかったことに気が付く。
バーボンに関する情報は、彼に任せて。
私は休んで来ることにしよう。

今はまだ、知らない。
バーボンに関する本当のことも、ジョディに振り回されることも。
私は、知らない。

ALICE+