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あれからも私たちはバーボンについて調べてみたものの、結局それ以上の情報はまったく出てこなかった。
表向きの情報ですら出てこない、となると、私にはもうお手上げ状態。
どこまで秘密主義を貫くのだろうか。

バーボンのことはそれ以降手を切り、細々とした組織の動きについて捜査していた。
そしてそんなとき、ジョディから組織が日本で本格的に動き出した、と連絡が入った。
予定より少し早いような気もするが、でも確かに、そろそろ赤井くんが言っていた時期と重なるなと目の前のカレンダーを見て思う。

ジョディが言うには、ベルモットが高校教師として潜入しているらしい。
だから彼女も海外からの特別教師として高校に潜入出来るよう手配してくれ、とこれはジョディではなく、赤井くんに頼まれた。

それくらいは造作もないことだけど。
どうしてベルモットは高校の教師として潜入しているのだろうか。
ベルモットが潜入、となれば変装して潜入しているのだろうけど、わざわざ変装してまで高校に潜入するのはどこか引っかかる。
その高校に、何かあるのだろうか?



「この手続き、今日中に出来る?」

「はい!大丈夫です!」

「そう。じゃあ、お願いするわね。」



ある程度の書類等を作成し、残りは部下にジョディの手続きを任せて席を立つ。
目的の場所に来てから取り出したのは、胸ポケットに潜ませていたタバコ。

基本吸うことは無いのだけれど、赤井くんと共に過ごすようになってから小なり大なり吸う頻度は増え、どうしてだろうか…。
赤井くんと距離が離れてからは、よりいっそう増えたような気がした。

フィルター部分にあるカプセルを噛み、道中で購入したコーヒーを一口飲む。
ああ、そう言えば、お腹が空いた。

半分も吸い終わってないタバコの火を消したあと、部下に昼休憩を取ると連絡を入れてから早々にその場を出る。
時刻は昼の2時過ぎ。
少し遅めではあるけれど、昼休憩としてはちょうど良いくらいだろう。

最近はデスクに噛り付き状態が続いていたこともあって、気分転換を兼ねて本部から離れた場所に車で向かう。
滅多にかけることのない音楽再生のボタンを押して、昔好きだった曲を流す。
うん、我ながら良い気分転換だ。







そして到着したのは、途中で検索を掛けて引っかかったオシャレなカフェ。
たまにはオシャレなカフェでサンドウィッチとコーヒーを嗜むのも悪くない。

駐車場が少し離れていたため、車を停めてから5分ほど歩く。
その、2分くらいの中で起きた。



「きゃ!え、ちょ、引ったくり!!」

「……………。」



まったく。
気分転換に出たと言うのに、どうしてこうも事件に遭遇してしまうのだろうか。
アメリカの治安なんて、結局はそんなものなのだろうけれど…。

頭に置いた手とともに思わず溢れそうになる溜息を噛み殺し、ちらりと引ったくり犯を見れば、こちらに向かって来ていた。
武器になるような物は持ってないし、丸腰の犯人であれば掛かる時間など秒で終わる。



「お昼休みくらい、静かに過ごさせてくれないかしら…。」



何かを叫びながらも、ただただ真っ直ぐ向かってくる引ったくり犯に足を引っ掛けたら、勢い余って思いっきり滑り転んだ。
よっぽど恥ずかしかったのか、スラング過ぎる汚い英語を口にしつつ、顔を真っ赤にして私に向かって手を挙げる。

私を、殴ろうと言うのか。
そのまま気を失ってくれたら楽だったのに、神様は私の味方なんてしてくれない。



「勘弁してよね…。私だって好きで関わってるわけじゃないのよ。」



その手を避けて再度足を掛け、バランスを崩したところで手を捻りあげる。
すると犯人は低く呻き声を上げて、抵抗するのを一切やめた。

さっきよりも恥ずかしいであろう状態になる前に、さっさと倒れてくれたら以上の羞恥も感じることなんて無かったのに。
手錠なんてものは持っていないから、その辺に落ちていた紐で犯人を縛り付け、警察に連絡をしてからその場から立ち去る。
別に私はFBIだから面倒なことなんて無いのだけど、警察が来るまで待つのも面倒だ。

引ったくり犯から奪った鞄を手にし、持ち主であろうさっきの女性に渡す。
するとその女性は「ありがとう」と言いながらも、キラキラと目を輝かせていた。

…何故だろう。
嫌な予感がする。



「お礼にお茶でも奢るわ!」



アメリカ人としては少々拙い英語から、自分と同様に外国籍の人間だと解る。
そんな彼女に腕を掴まれ、強引に進まれてしまっては、私には断ることが出来なかった。

ああ、ただ平和に。
ただ静かに、久方ぶりに自主的に取った昼休憩を過ごしたかっただけなのに。

どうにも、静かには終われないらしい。

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