13


強引な彼女に連れて来られたのは、目的地としていた例のカフェ。
近辺には此処しかカフェが無かったらしく、目的地に着いたとは言えども予想していた状況とかなり変わっていた。

店員にサンドウィッチとアイスコーヒー、それから彼女の分のアイスティーを頼んで届くのをふたりで待つ。
よく見てみると、彼女は何処かで見たことがあるような顔をしているが、訊けばそれはそれで話しが長くなるような気もしたので黙っていることにした。



「あなた、警察の人?」

「………いいえ。ただの特殊なOLです。」

「強いのね!何か武道でも習ってるの?」

「まあ、そんなところです…。」



彼女に訊かれたのは、私の職業。
FBIとは言いづらく、多少苦しい言い訳をしたけれど、彼女は一切疑うこともなく私の言葉をそのまま信じた。

それからも彼女は、アメリカの治安だとか母国の平和具合だとか、今日の天気なんかとどうでもいい世間話を始める。
その彼女のマシンガントークがやっと止まったのは、店員がサンドウィッチとコーヒーとアイスティーを持って来たから。

彼女はアイスティーを。
私はサンドウィッチを手に、再び彼女の他愛ない会話が始まる。
とは言っても私は食べているので相槌しか打つこともなく、会話として成立しているかは多少疑問ではあるけれど。



「でも、こんな時間に休憩なんてあなたも忙しいのねぇ…。」

「…まあ、多少は。一応は私も上に立つ人間なので、どうしても後回しになるんです。」

「下の子たちを優先するなんて、あなたは素敵な上司なのね。」

「そう…ですかね。」



正しく言えば、自分の休憩なんていつも忘れてしまっている、なのだけど。
訂正するのも面倒な気がしてそのまま聞いていたけど、真っ直ぐな目で素敵な上司だと言われるとどうも照れ臭い。
赤井くんが言われたら、きっと言葉を発することも出来ないんだろう。

そんなことを考えながらも、相変わらず止まることのない彼女の話しに相槌を打つ。
サンドウィッチを食べ終え、氷の溶けた薄いコーヒーを飲んでいたとき、話し続けていた彼女の携帯が音を立てた。



「もしもし、優作さん?あら、もう打ち合わせが終わったの?」



電話に出た彼女は、先ほどの外国人独特の拙い英語ではなく、日本語で話し出す。
そうか、彼女も日本人なのか。

どうやら、電話の相手は彼女のボーイフレンドらしい(見た目年齢的に旦那さんかな)。
彼女が何度か相槌を打ち、返事をしている間に残り少なくなったコーヒーを飲み干した。



「今、引ったくり犯からバッグを取り返してくれた女の人と、お礼に近くのカフェでお茶を飲んでるのよー…あら?」



彼女は誰かを待っている最中で引ったくりに遭った、という推測で間違いないだろう。
私は彼女が別れやすいよう、帰る意思を見せるために立ち上がれば、彼女は不思議そうな目で私を見て来た。



「私も休憩が終わりそうなので。あなたも誰か待たれているようなら、帰りましょう。」



そう言うと彼女は「ごめんなさいね…」と申し訳無さそうにし、電話を切ってバッグから財布を取り出して立ち上がった。
見えるところにない伝票を探す彼女が、なんだか可愛らしくて。
どうして伝票が無いかを伝えようとしたときに、店員が「お代ならそちらのお客様から最初に頂いております」とネタばらしするものだから、少し気まずい。

すると彼女は「私が奢るって言ったのに」と拗ねたように口にする。
それに思わず笑みが溢れ、気が付いたら「今度ご馳走になります」と言っていた。



「約束よ!今度また、お茶しましょうね!」

「ええ、もちろんです。」



大声でそう叫び、大きく手を振りながら反対方向に向かって歩いて行った彼女。

彼女はおっちょこちょいなのか、うっかりさんなのか。
約束を交わしつつも、互いに明かさなかった名前、連絡先で偶然でないとその約束は果たせなくなっていた。
きっと、おっちょこちょいなんだろう。

久方ぶりに同性と話しをしたことで、これはまた別の意味でいい気分転換になった。
でも、やっぱり引っかかる。
彼女はどこで見たことがあるんだろうか…。



「…あ。ナイトバロニスだわ。」

ALICE+