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ぴろん、と短い機械音が携帯から流れる。



「…また。」



それは新着メッセージを知らせるもの。
最近頻繁に、この音は流れる。
それの差出人もまた、最近ではよく見るある人物だった。

−−−調子はどうだ?

そう書かれたメッセージ。
差出人は、赤井くんだった。

ジョディの手続きは済ませ、あとは向こうでタイミングを見て潜入すると言うことで収まり、私は特に新しくすることもなく今ある組織の情報から何か詳しく拾えないかと試行錯誤を繰り返す日々。
そんな中でほぼ毎日送られてくる、なんてことのないメッセージ。

これは素直に私のことを気遣っているのか、それとも、組織について進展はないのかと焦っているのかなんなのか…。
それは本人に聞いてみなければ、さすがに私の推測では手に収まらない。



「………次は電話…。」



どう返すか考えあぐねていると、次は初期設定の長い音楽が流れ始める。
時計を見ればちょうど良い時間だし、出勤前に最近出来たパン屋で買っておいたパンでも食べながら話しをしても良いか。

部下に昼休憩に出ると告げ、一度切れた電話を掛けなおすと、赤井くんはすぐに出た。
日本じゃ夜中なのに、この人は何時まで起きているつもりなのだろう。



「もしもし、赤井くん?何か急ぎの用事?」

『…いや、そう言うわけではない…が…。』



ならどう言うわけか。
そうは思うけれど、言葉にはしない。
それは彼が珍しく、歯切れの悪い物言いだから、だと思う。

どうも組織について聞きたいわけでもなさそうだし…これは、赤井くんが言いたいことを言い出すまで待つしかなさそうだ。



『特に何もないか、と思ってな…。』

「珍しいわね。そんなことを聞くなんて。」

『バーボンと接触したんだろう?』

「直接はしてないわ。出向いた取引場所に彼がスコープ越しで姿を現しただけ。」

『…そうか。』



もしかすると、先ほどのメッセージの意図は私の安否を危惧したものなのかもしれない。
組織のコードネーム持ちと接触したFBIとなれば、それは突然、赤井くんを殺すための良い道具として使われる。

けれどあのときは、直接対面したとかそんなものではない。
ただ、スコープ越しにバーボンと視線が重なっただけなのだ。
赤井くんから聞いた話しで推測するなら、バーボンは赤井くんを誘き出すために取引場所から考えた狙撃箇所を初めから特定していただけなのかもしれない。
そうすると、私自身が割り出された、と言うのは少々可能性が低過ぎる。

そう伝えると、赤井くんは安堵したような声で「そうか」とだけ言った。
どうやら赤井くんが言いたい要件は、本当にそれだけだったらしい。



『…宮野明美。俺が組織に潜入するために使った女が、組織に殺された。』

「…っ、そう…。」

『おまえまで、奴らに殺されないかと…柄にもなく恐れてしまってな。』

「っ私は、そんな簡単にはやられないわ。」

『ああ…だろうな。』



赤井くんが不意に放った言葉に、思わず私が動揺してしまった。
私が殺されないかと恐れてしまったと言う彼に、いつものように返すと彼は逆に安心したように「だろうな」と言う。

そうか、彼女は…。
詳しくは解らないけれど、赤井くんを手引きした者として殺されてしまったのか。
何も知らず、そして本当に赤井くんを愛してしまった組織の…哀れな女。

けれど、哀れだけではない。
彼女は赤井くんからも、潜入のために利用した、と言うのとはまた別の感情を抱いてもらっていたのだ。
一概に哀れだとか悲劇だとか、そんなことを言っては失礼だろう。

でも、だからこそ。
赤井くんは恐れを抱き、苦痛を感じている。



「…私は何があっても奴らにだけは殺されてやらない。それは赤井くんも、でしょう?」

『そうだな。』



彼が不意に見せてきた弱さ。
どうしてか、彼との距離がもどかしいと思ってしまった。

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