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『例の予測された狙撃現場ですが…赤井秀一が現れることはありませんでした。』

「…そうか。」



以前取引現場の情報を流し、そこに赤井秀一が現れるか部下に見張らせていたのだが、どうも奴は現れなかったらしい。
となれば、以前奴が掴んだ日本という本拠地の情報で、日本に向かったということは俺には簡単に予測出来た。

赤井秀一は日本かアメリカか。
FBIなら大人しくアメリカに居れば良いものを、日本に行くだなんて。
つくづく、奴は気に入らない。



「他に誰か現れなかったのか?」

『現場付近に姿を現したのは、女性と大柄な男性のみです。』

「何…?何故捉えなかった。奴の仲間だったなら、取引材料として使えたはずだ。」

『それが…我々が乗り込む前に、姿を消してしまったようでして…。』



思わず溜息が溢れる。
現場付近、と言うのだから確実にその場に居たとは言い切れないが、その逆も然り。
バレないよう狙撃ポイントに行き、そのまま逃げた可能性もある。

わざわざ危険を冒してまでFBIに情報を流したと言うのに、捉えられなかったとは。

まあ良い。
奴が…赤井秀一が日本に居る、とだけでも解れば、あとは日本で奴を捉えるのみ。

今はまだ片付かない組織の任務もあって、日本へは行けないが…。
それさえ片付けてしまえば、日本に行くことだって可能なのだ。
俺は、奴を捕まえて組織に投げ渡すことが出来ればそれで良い。



「もしもし。僕です。赤井秀一が日本へ行っている可能性があります。」



次に掛けた電話は、組織のメンバーに赤井秀一のことを伝えるためだ。
俺は、使える奴はどんな奴だろうと上手く使ってみせる。

そして、赤井秀一…奴を…−−−。



「ええ。このまま日本に居れば奴と遭遇し、我々の手によって奴を消すことも可能だと思われますよ……ベルモット。」



電話の相手は、ベルモット。
ベルモットには、赤井秀一の情報を掴めるであろうと言うことで、今回の情報流しに少々手を貸してもらっていた。
本来であれば報告する義理は無いのだけど、彼女はどうも、姿を眩ませたシェリーにご執心なようで、わざわざ変装をしてまで彼女が現れそうなところも探っている。

そんな彼女に報告をすれば、恐らくジンにも情報はすぐにリークされるはずだ。
ジンはジンでシェリーにも執着しているようにも思えるが、その反面、赤井秀一にもひどく執着していた。

ジンが赤井秀一を殺す前に、俺が奴を裁かねばならない。
それがあいつへの…仇討ちになる。



「必ず俺が…おまえの仇を討ってやる。」



俺の胸を支配するのは、日本にも悪影響をもたらしている組織の壊滅。
そして、赤井秀一への憎悪。

学生時代の俺は、こんなことを考えるような人間じゃなかったように思える。
学生の頃に恋い焦がれ、今でもアメリカに居ればいつか会えないかと願ってしまう彼女には、会えばどう思われるのか。

地位や名誉、財産を手にした代わりに、失ったのは過去の自分。
それを悔いているつもりは一切ないが、それでも、彼女が遠くなってしまったことがすこし悲しくも思う。



「まいか…おまえは、今、幸せなのか…?」



昔の恋人の幸せを願うことくらい、今の俺にも許されるはずだ。

ベルモットに掛けたバーボン用の携帯を胸ポケットに仕舞い込み、公衆電話ボックスから出て車に向かう。
俺は今、降谷零であり、安室透であって、バーボンでもある。
今は組織と…赤井秀一のことを片付けることだけに専念しよう。

もしもすべてが終わったときは。
無事に生きていたのなら。
俺はまた、彼女を探しても良いだろうか。

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