19


有希子さんから演技指導を受け、早数週間。
私もとうとう、残りの自分の部下を引き連れて日本へと到着した。



「まいか!久しぶり!」

「久しぶりね、ジョディ。教師はどう?」

「特にどうもないわ。」

「そう。」



空港に迎えに来てくれたジョディと、空港にて久しぶりの対面を果たす。
周囲に訊かれても困らないような切り出し方で捜査の進行状況を訊けば、困ったような表情で特にどうもないのだと返された。

特にどうもない。
つまり、組織の進展は見られない、ということになるのだろう。
今はただ、日本でもアメリカ含む海外でも手を出すのをやめている、ということか。
もしそうだったとすると、私がアメリカから日本へ渡ったのは少々気を急がせ過ぎたのかもしれない。

それから私はジョディの車に乗り込み、部下は別の捜査官の車に乗り込む。
今から向かうのは…米花町。
日本へ来た私がこれから当分、潜入する予定の喫茶店がある場所だ。



「それよりあなた、喫茶店の店員なんて出来るの?ちょっと不安だわ…。」

「あなたが言って来たんでしょう…。…まあそこは、なんとかなるわよ。」



一般市民に成り済ますのなら、ということで間借りした、少し安そうなアパート。
そこに到着すると、ジョディは不安そうな表情で喫茶店の店員なんて出来るのか、と今さらなことを言ってきた。
提案者が何を言う…。

「なんとかなるわよ」と言って、ジョディの車から降りる。
これからは極力ジョディたちと関わることもなく、ほぼ私単独で捜査が始まるのだ。
それはアメリカに居るときと変わらないけれど、ひとつ違うのは…。



「遅かったな。」

「…どうして此処に居るのよ、赤井くん。」



そう。
赤井くんと場所が近付いた、というところ。

家の扉を開けると、何故かそこには赤井くんが立っていた。
赤井くんの周りには段ボール。
どうせそこに居るのなら、片付けてくれていても良いんじゃ…。
まあ、赤井くんにそんなことを期待したところで意味は無さそうだけど。

思わず溢れる溜息を我慢することなく出し、赤井くんを再度見やる。



「…片付け。手伝ってくれるのかしら?」

「ああ。おまえがそう望むのならな。」



片付けを手伝ってくれるのか、と赤井くんに言えば何故か偉そうに返された。
そんな赤井くんに言いたいことはたくさんあったけれど、どうせ赤井くんに言ったところで仕方がないのは私が解っている。

私も玄関で靴を脱いで中に入り、複数ある重たい段ボールを赤井くんに向ける。
軽い段ボールは衣類なので、赤井くんには任せないことにした。
一応、私にも羞恥心は持ち合わせている。



「ところで、おまえはどう捜査するつもりなんだ?まいか。」

「ジョディから"江戸川コナン"という少年が頻繁に事件に関わっている、と聞いたからそこから探ってみることにしたわ。」

「そうか。」

「だから…あなたたちとはまたしばらく、別行動になるわね。」



荷物を片付けながら、私の今後の動きについて赤井くんと話す。
頻繁に事件に関わる少年、となれば、私だって多少気にはなる。
だから、喫茶店の店員となって自然に少年と近付き、ことあるごとに少年が関わる事件と接触出来れば、と思っていた。

喫茶店の店員になる。
そう言うとやはりと言うべきか…。
赤井くんは驚いたように目を見開いた。



「…大丈夫なのか?その見た目で。」

「…その言葉、そっくりそのままあなたにお返しするわ。」

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