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あれから何度か毛利蘭さん含む江戸川くんと遭遇し、蘭さんとは親しく話せるような間柄にはなった。
だけど江戸川くんは表面上は小学生らしく話してくるものの、やはり私に対してどこか疑いの眼差しは向けたまま。

今日も毛利探偵が不在だとかで、蘭さんと江戸川くんはポアロに来ていた。
どうやら毛利探偵が不在だと、ふたりは頻繁に此処へ来るらしい。
来ているときの理由が、だいたいが毛利探偵不在だから、というものが多かった。
蘭さん曰く、蘭さんが家のことをすべてしているらしいから、蘭さんからしてみたらたまのご褒美、というものなのだろう。



「太宰さんって英語、得意なんですか?」

「え…?」



先ほどまでお昼の時間と言うことで賑わっていた店内も、今は落ち着いている。
後回しにしていたテーブルの片付けをしていると、不意に蘭さんに話し掛けられた。

英語が得意なのか聞いて来た蘭さんに、思わず目を丸くする。
英語が得意、と言うのはどこから察したと言うのだろうか…。



「さっき外国の方と話していたとき、すごく流暢だったから…。」

「ああ、そう言えば…。まあ、大学院生だからね。多少は出来るよ。」

「へー!でも太宰さん、英語の発音綺麗だったね!すごい!」

「ありがとう。そう言う江戸川くんも私の英語の発音が綺麗だって解るの、すごいね?」



何を思って言っているのか、江戸川くんは無邪気な表情で話しに乗ってくる。
それに返すよう、にっこりと微笑みながらあなたもすごいのだと伝えれば、江戸川くんは引き攣ったような笑みを浮かべた。

これくらいじゃ、私自身は出さないわ。
江戸川くんが何を思って、どういう風に疑いを向けているかは知らないけれど…。
そう簡単に正体は明かさない。
…あら、どうして私はこんな子どもに対抗しちゃっているのかしら。



「そう言えばもうすぐゴールデンウィークだけど、蘭さんたちは何処かへ出掛けるの?」

「ゴールデンウィークは新一…幼馴染の高校生探偵と映画を観に行くんです。」

「へぇ…良いわね。デート?」

「そ、そんなんじゃないですよ…!」



話題を変えるように、今度のゴールデンウィークの予定を訊けば蘭さんは楽しそうに幼馴染の高校生探偵とデートだと言った。
直接デートとは言われてないけれど、デートかと問うて顔を赤くするあたり、あながち間違いじゃなさそう。
高校の青春時代を謳歌しているみたいで、羨ましい限りだわ。

ちらりと江戸川くんに視線を向ければ、彼はどことなく遠い目をしていた。
…もしかしてこれは、江戸川くんは幼い恋心を蘭さんに抱いているけれど、蘭さんには幼馴染の高校生探偵が居るから悲しい恋をしている、ということなのかしら。
今時の小学生も切ないものね。



「…江戸川くん、好きか解らないけど私の奢りだから、これでも食べて元気出してね。」

「へ…?あ、ありがとう…太宰さん…。」



あれだけ鋭い視線を向けて来ようとも、結局この子も普通の小学生。
同情というつもりではないけれど、せめて元気が出るようにと店長が試作したレモンパイを江戸川くんに差し出す。

さっきとはすこし違う引き攣った笑みを浮かべながらも、江戸川くんはお礼を口にした。
子どもは好きじゃないけれど、江戸川くんのように賢ければまた話しも変わってくる。

レモンパイを食べる江戸川くんを前に「よかったねコナンくん」と言う蘭さんは、江戸川くんからしてみたら悪魔なのか…。
私もジョディあたりに言われたような気がするけれど、本当、鈍感も度が過ぎればただの罪にしかならないのね。
学びました。

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