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まさに嵐、ハリケーンだ。

あれから場所を移し、毛利探偵事務所に上がって私は江戸川くんと隣並びでテーブルを挟み、彼と向かい合う。
ちなみに蘭さんは買い物して来たものの整理と、時間も時間なので夕飯を作りに行った。

どうやら毛利探偵は仕事で、まだここには帰って来ないらしい。
なるほど、だから借りれたのね。



「ワタシ、レオンと言います。あなたはエミリーじゃ、ないですか…?」

「違います。まったくもって人違いです。」

「Oh...!運命のヒトを間違えるなんて!」



目の前の男性…レオンに人違いであることをこと細やかに英語を交えて説明すれば、レオンはあからさまに落胆してしまった。
ちょっと可哀想ではあるが、あんな道端で大声出されて注目に巻き込まれた私の方が彼よりもよっぽど可哀想である。

どうやらレオンは、エミリーさんの写真は持っていないらしい。
この狭くて小さいような日本であっても、その人をピンポイントで見付けることは限りなく難しいだろう。
運命だなんだと言うのなら、勝手にひとりでがんばって探してちょうだい…。



「エミリーは、どこいますか…?」

「知りません。」

「太宰さん…顔怖いよ…。」

「そう?ごめんね江戸川くん。こんな茶番に巻き込まれたくないから、つい…。」

「…太宰さんって意外と毒舌だよね。」



涙目になりつつも、「エミリーはどこいますか」なんて訊いてくるレオンに冷めた視線で知らないのだと言うと、江戸川くんに顔が怖いのだと言われてしまった。

私はFBIで、そして彼のことは知らないし、ポアロでアルバイトをしているとは言っても組織を追っているのだから、当然暇なんてものは誰からも与えられていない。
それなのにこんな茶番に、現在進行形で巻き込まれてしまっているのだ。
これ以上レオンのエミリー探しに関わりたいなんて、思えるわけがない。
それを簡潔に言えば、江戸川くんからは「意外と毒舌だよね」と言われたが。

慣れないことをして、こっちだってストレスは溜まっているもの。
これ以上のストレスを抱えさせないでほしいとしか思えない。
ストレス軽減社会を望むわ…。



「あのー…すみません、人探しをお願いしたいんですけど…え?レオン…?」

「エミリー!?」

「………………は?」



思わず頭を抱えていると、数回扉をノックされ、江戸川くんが返事をする前に女の人がひょっこりと顔を覗かせた。
遠慮がちに人探しを頼みたい、と言っている途中で、その女性はレオンの存在に気付き、あろうことかレオンの名を呼んだ。

さらに驚いたのは、レオンが彼女のことをエミリーと呼んだこと。
探していたエミリーとレオンが驚くほどのタイミングでエンカウントしたこともそうだけれど、それに何より、似てなさ過ぎだ。
いろいろ信じられないことと驚きが重なり、たっぷり間を空けて江戸川くんと声が被る。



「……太宰さん、似てないね。」

「同感…。」



確かに、目の前の彼女も私と同じブラウンの髪にグレーの瞳ではある。
けれどあの髪質を見るからに私と違って地毛ではなく染髪であり、目だってあれは恐らくカラーコンタクトだろう。
それになにより、私はあんなに濃いアイメイクなんて絶対にしない。

見た目で言えば、もっとある。
あんなパーマをあてた痛む髪型にはしていないし、もっと言えば長さだって違う。
あのエミリーさんは爪も長さ出しで固めているのか、ゴテゴテとしたデザインの長めのスカルプを施している。

どこをどう見間違えたらエミリーさんだと思うことが出来るのだろうか。
その程度の運命だったのなら、さっさと諦めて国に帰って新しい運命を探せば良いわ。



「あの、すみません…探してほしかった人なんですが、この人なので…。」

「ああ、はい。そうですか。」

「エミリー!ワタシたちの新居!用意シマシタ!行きましょう!」

「(2度と現れないでほしいわね…。)」



それから間も無く、レオンは例のエミリーさんを引き連れて毛利探偵事務所からレオン曰くの新居に向かった。
彼に割いた時間は30分程度だけど、なんだか半日以上捕まっていたかの如く疲れの蓄積が半端ではない。

もう2度と彼らと遭遇しないことを祈る。

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