爆発物とかまじ勘弁

上司…基降谷さんに連れてこられたのは、とある大きな建物。
ここは何かの研究所か何かだろうか。
薄暗い建物に、淀んだ空気。
ああ、落ち着く。



「おい、いつまでそこに居るつもりだ。」

「あ、すいません…。」



私のような人間は、本来であればこのような場所がお似合いなのだ。
警察で、公安で、人の命と日本を守ろうだなんて、昔の私を知る人間が知ればきっと鼻で笑うのだろう。

落ち着く気持ちで佇んでいれば、降谷さんが苛立ちを含めた声で私を呼ぶ。
それに気付いて「すいません」と言いながら降谷さんに近付けば、隠すことなく舌打ちをされてしまった。

怖い、この人怖すぎる。
流石死に場を幾度となく経験して来た人は違うな、と思う。
死にたいなあ、と安易に考えてしまう私とは、まさに雲泥の差だった。



「風見。様子はどうだ。」

「どうやら立て籠もっているようで、こちらにまったく反応を見せません。」

「そうか…。」



進んで行くと、同じくスーツに身を包んだ捜査官らしき人たちと合流する。
降谷さんから「風見」と呼ばれた人はこちらに気付くなり降谷さんに頭を下げ、今の状況を簡単に説明していた。

何が起こり、何が原因でここに立て篭もりをしている人物が居るのかは知らないが。
解る、すごい解る。
こんな状況立て篭もりたくなるよなあ。
私だったら首吊って死ぬわ。
こんなストレスしか溜まらない状況、私にはどう足掻いても耐えられない。

私であったなら迷わず死に向かいそうなこの局面でも生きている奴に、思わず賞賛でも送ってしまいそうになる。
そんなことしたら自分の首が無事でないことくらいは解るから何もしないけど。
出来ることなら、私も今すぐ帰って家に閉じこもってしまいたい。



「突入は。」

「準備は出来てます。しかし奴もテロ組織の人間なので、爆発物を持っている可能性も高確率なものかと…。」



なに、爆発物だと。

「風見」さんの爆発物発言に、穴という穴が思い切り開いた感覚がした。
死ぬのは至って構わない。
けれどこんなところで、こんな立場で、ただ上司について行った新人、なんてクソみたいな状態で死んでたまるか。
どうせ死ぬのなら、もっと難易度の高いミッションを与えられ、最前線で自分の命をサクッと終わらせてやりたい。

なんて面倒なものを持ち込んでいるのだろうか、この立て篭もり犯は。
賞賛や理解などという先程の言葉は、全部綺麗さっぱり訂正させてもらう。
糞食らえが。
さっさと降伏して、目の前の公安警察に捕まってどっかの房にぶち込まれてしまえ。



「突入しろ。」



いやいやいやいや。
勘弁してよ本当に。
突入しろって本気ですか、正気で言ってるんですか、降谷さん。
「風見」さんも元気に「はい」とか言ってるんじゃねぇよ、意味解んねぇわ。

ここに居る全員の上司と思われる降谷さんの言葉は絶対服従なのか、それぞれが各自に見合うポジションに別れていく。
これは確実に、なにを言ってもなにを言われても突入する気だ。
爆発物を所持していたらどうするつもりなのだろうか、この人たちは。
何も名誉も計り知れない、こんな陳腐な場所で自らの命を自らの手で汚く破滅させるなんて、正気の沙汰とは思えない。
私が言えることでは無いのだけど。

ああ…胃がキリキリしてきた。
ほんとマジでやめてシャレにならん。
おまえらまとめてぶっ殺すぞ。
爆発物に巻き込まれて死ぬよりも前に、おまえらのことばらばらにしてやろうか。



「如月、おまえはそこで大人しく様子を見ておけ。…公安のやるべきことを。」



背中を向けたまま名前を呼ばれたかと思うと、降谷さんは少し離れた場所に居る私にそのまま動かないよう、小さくも太い釘を打ち付けて来た。
言われなくても、正義のためだけにここから動く気はサラサラない。
衝動で目の前の奴らを殺したくなるくらいで、小心者の私になんか出来ることなんてひとつも無いだろう。

町交番の駐在さんにでもなれば良かった。
そこで大きなニュースになるような大事件に巻き込まれて、そしてそこで美しく死ねば良かったのに。
公安になりたいのもあって、上からの勧めのまま公安になれる確率のある警察大学校になんて行かなければ良かったんだ。

どうせ私なんて根暗で隠キャで警察なんてまったく似合わない、引き篭りなのに。
後ろ指刺されて笑われているのは、いつも私だと言うのに…はあ。
ほんとマジでやめてシャレにならん辛い。
何が嬉しくて配属初日、名前も知られぬ一端の新人捜査官という立場で命を終わらせなければならないと言うんだ。
まあ私みたいなクソにはそんなレッテルが似合っていて、望んでいるような死に方は高望みでしかないんだろうけど。
死に方くらいは高望みさせてくれよ神様。
死ぬときくらい、私みたいなクソ人間でも高望みさせてほしい。



「行け!」



降谷さんの一言で、機動隊含むすべての人間が一気に動き出す。
動いていないと言えば、指揮を取っている降谷さんと動くなと命じられた私くらい。
まあ動けと言われても、今の状態じゃ動きたくないんだけど。
何度も言うようではあるが、こんな新人捜査官1日目で命は落としたくない。

しばらくは「ここは戦場ですか立て篭もりひとりに対して…」というレベルだったけど、わりと早めにその音の要因たちは消え去り、静かになる。
え、これどっちが勝ったの。
まさか爆弾所持の可能性が高い立て篭もり犯が勝った、とか言わないよね。
そんなの勘弁してほしい。
私にはまだそんな人と一対一で争えるほどの度胸、培われていないのだ。

祈るように降谷さんたちの登場を待っていると、飄々とした様子で降谷さんを先頭に立て篭もり犯らしき男を捕縛した他公安警察たちが出て来た。
見る限りでは降谷さんたちが勝利し、立て篭もり犯を捕まえたのが解る。
良かった、これで私が出なくても済む…。
どうせ私なんかが前に出たところで、攻撃されて終わってしまうだけだし…。
それならなおのこと、これで良かった。



「如月、帰るぞ。」

「へ…あ、はい…!」



…降谷さんのペースは、理解出来ない。

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