一難去ってまた一難

無情にも、あの爆発物所持の可能性を持つ男の立て篭もり事件が起きてから数週間という時間が過ぎていた。
どうして無情か、というのは他でもない。
あの事件に立ち会ったあと降谷さんから言われたのは、「新人だからと言って新人扱いはしない。おまえも警察大学校を首席で卒業したんだろ」というお言葉。
つまりあれか、新人ではあるけれどもともと警察なんだからそれなりのことは解るし察していろいろやれや、てことか。
まじでほんとに勘弁して死にてぇ。

確かに公安になることは夢だった。
だけど別に警備企画課じゃなくても良かったし、もっと言えばどうせ無理なんだからと察していたんだ、適当な日の目すら浴びることの出来ない地下捜査官にでもなっていたかったのが本音。
そんな警察聞いたことないけど。
こんなに注目されないようでされてしまうような、大きな組織にこの私が本気で入れるなんて思うわけがない。
成績首席だって本当かどうかも危うい…。
誰かが棄権や放棄してとかに決まってる。
どうせ私なんかは誰かのおこぼれで乞食として生きてるようなもんなのだ。
これだってきっとそう…。



「おい、キノコを栽培するな。」

「…風見さん。」



どうせ無理なんだからさっさと首落ちて死ぬか殺されるか、もしくはこの部署から異動させてもらえるか頼むしか私の能力に見合わない公安から逃げられない。
公安だなんて高望みし過ぎてそれを叶えるなんて、酷い神様も居たものだ。
もう二度と神様なんて信じない。
どうせ元からあまり信じないし、神様だって本当に居れば、私の願いなんて塵ほどにも叶えたくもないんだろうけど。
私はそんな存在なのだ、願うことすら烏滸がましいとすら思えてくる。
そもそもあまり信じていないくせに、神様のせいにしたらもっと怒られるか…。
でも神様のせいにでもしないと、ここへ配属された理由がまったく解らない。

そこまで考えながらも、止まってくれはしない自分の指はキーボードを叩いていく。
公安で任されているのは、今のところじゃ下っ端がやるような書類の処理。
それさえも量が量だし内容が内容だから、普通の刑事組織とかよりもハードなものを取り扱ってるんだろうけど。

ああでも、きっと、これが公安へ飛ばされた要因なのかもしれない。
根暗な性格もあってか、タイピングは早いから打ち込むのが得意だし、もっと言えばワードもエクセルも得意だ。
こうして考えてみたら普通の会社の普通の事務員になっていた方が、よっぽど幸せになれたのかもしれない。
まあどうせ幸せなんて来ないんだけど…。
ああ、やっぱり鬱だ、死のう。

思わず手を止めて顔を覆えば、頭に軽い衝撃を与えられた。
顔を上げれば呆れたような視線で私を見る風見さんがいて、思わずこちらが驚く。
今日、風見さんは降谷さんと一緒に今注目されてる世界規模の事件に、日本調査をしているはずなのでは…。
一緒のはずの降谷さんも居らず、そして風見さんは片手に書類を手にして(たぶんこれで叩かれた)いるし…なにこれ。
まあいいや、どうせこんな下っ端でポンコツ出来損ないの警察大学校卒業生な私が聞けることじゃないんだろうし。
聞いてもどうすることも出来なければ、きっと風見さんは私に話したこと自体忘れそうだから聞いてもどうにもならない。
むしろ聞いたら、小さな不幸が溢れる私は巻き込まれてしまうだろう。
小さな不幸も塵ツモだ、塵ツモ。
今頃私の塵は、エベレスト級にたんまりと溜まってそうだなあ…。

これぞまさに不幸体質。
決して、今ハマってる、名字と誕生月が各月になっている二次元アイドルグループのキャラのことを言ってる訳ではない。
私自身のことであるのが、重要。



「降谷さんからの命令だ。如月も今回の任務に加わるよう、言われた。」

「………え。」

「早速今日から如月を加えて、今回の件について捜査を始める。良いな。」



拒否権があるようでない、その問い掛けはやめてくれないだろうか。
胃がキリキリと痛みを訴えかけていることが、よく解る。
事件に巻き込まれて死ぬよりも先に、胃痛でこの世から旅立ちそうだ。

結局、聞いても聞かなくても巻き込まれるものは巻き込まれるらしい。
聞かない方が無難に終われると思ったこと自体、間違いだったのだ。
世の中ってそういうもん。
なんて割り切れるわけ。
風見さんから話し掛けられた時点で、きっとフラグは立っていたんだろう。
なんて酷い世の中なんだ。
私の味方なんてどこにも居やしない。

ああ、辛い鬱だ。
誰か私にも優しい世の中を作ってくれ。
そんなもの警察…ましてや公安になったからには、絶対に無理な話しだけれど。

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