1day

どうしてこんなことになっているのか。
自分にすら、よく解らない。



『いやー今回早めに来たけど、結局仕事があったんだな。』

『でも、そうだと思ったよ。』

『休暇なんてくれないよね…ショータイムだって恐ろしいくらいに弾丸だったし。』

『お腹空いた。』



今俺の前に居るのは、サングラスかマスクで顔の一部を隠した不審者…ではなく、聞くところによると隣国のアイドルらしい。
どうしてその"隣国アイドル"と一緒に居るのか、と言うとそれはほんの些細なきっかけがすべての原因だった。

この隣国アイドル…BEASTと言う名のアイドルたちは、今回ここと大阪、そして名古屋の三大都市でライブをするらしい。
そんなBEAST宛に届けられた、一通の脅迫状がことの始まりでもあった。

その脅迫状の内容は、会場を爆破し、彼らもファンもろとも殺してやる、という至って在り来たりなもの(いや、こんなものに在り来たりも何も無いが)。
そしてそれは普段であれば刑事課に流される案件だったのだが、差出人や脅迫状の書き方からして、公安が追っているテロ組織の可能性が出て来たのだ。
だからアイドルの護衛を、なんと公安が行なっているという信じ難い自体になった。



『あれ、まいか?…まいか!?』

『あーもう、煩いなドンウナは…。』

『勝手に居なくならないでってばー!』

『僕、そこのコンビニでアイス買ってただけなんだけど。』

『会話になってない!』



本来であれば、俺は組織に潜入しているしポアロでのバイトもあり、気になることも残っているからいろいろと忙しいのに…。
どうして俺がここに居るか、と言うと、それはすべては鈴木財閥が原因だった。

日本で彼らBEASTの活動を任されている日本の事務所は、その殺人目的の脅迫状を受け取ってから警察に即通報。
けれど大元の彼らの事務所の社長は、何故か警察ではなく、日本活動で他のアイドルたちの活動も支えてくれた鈴木財閥の社長にこれらを相談していたらしい。
そこで彼らの警備の話しが、毛利探偵とコナンくん、俺にも話しが回ってきたのだ。

幸いなことに、毛利探偵は県外での依頼に出なければならないらしく、途中からしか捜査に加われないとのことで俺が引き受けた。
公安の人間が関わる捜査であれば、いつ俺の本来の名前、姿が割れるか解らない。
それなら俺が引き受けた方が賢いと言える。

空港のVIP専用の検査場を抜けたあとは、彼らは各々個別で仕事があるらしい。
俺も俺で忙しい身ではあるが、彼らも充分と忙しいようだ。
そこからは個別で公安を警備に付け、俺はこのミンスと言うメンバーに付く。



「ねえ、キミが僕の護衛?撮影があるから早くスタジオに連れてってよ。」

「…解りました。今すぐ行きましょう。」



調べたところ、彼らアイドルの睡眠時間は仮眠レベルでしかないのに、クマひとつ残さず肌の調子も良いのだから、そこは驚きとしか言いようがない。
それは彼…いや、彼女も一緒だ。

調べたところ、BEASTには6人の男のメンバーに加え、グループ結成初期からの女メンバーがひとりだけ存在している。
それが俺が担当を任されたミンス…もとい赤西まいかという日本人だった。

彼らがどういった行動に出るかも解らないので見守っていると、多少不機嫌そうに「早くスタジオに連れてって」と言われる。
自由奔放な人柄だと言われていたが、すこし偉そうにし過ぎなんじゃ…。
俺には合いそうにない。



「ミンスオッパ!だいすき!」

「うん?…ありがとう。僕は愛してるよ。」

「きゃああ!」

「オッパー!」



車に案内している最中、彼女を囲う恐らくは彼女たちのファン。
あの態度とは比べものにならないほど、彼女のファンサービスは素晴らしい。
よく「愛してるよ」なんて、歯の浮くような愛の言葉を同性に吐けるものだ。
それを訊いて失神間際なファンの女の子たちの心理も、俺には想像出来ない。

…けれど、彼女の表情は朗らかで。
あの不機嫌丸出しのさっきまでの表情とは、似ても似つかなかった。
ファンを大切にしている面は、アイドルだからこそなのだろうが多少尊敬する。
でもやはり、誰かも解らない名の知らぬ人物に愛の言葉を告げる部分は一般人である俺には到底理解出来なかった。

急げと言ったわりには、ファンにいちいち応えるので時間を取られる。
歩みこそは止めないが、それでも歩くペースは普通よりも遅い。
それにしてもこの、ファンによる彼女を囲った大名行列は凄まじいな…。
俺なんかより、ファンの女の子たちの方がよっぽどボディーガードだ。

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