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東京都立呪術高等専門学校。
日本に2校しかない呪術教育機関。表向きは私立の宗教系の学校とされている。
多くの呪術師が卒業後もここを起点に活動しており、教育のみならず任務の斡旋・サポートも行っている呪術界の要。


「え、仙台?」
「ああ」


伏黒恵の部屋のベッドの上で何時ものようにのんびりしていれば、恵にどうやら任務が割り当てられたらしい。
一緒にスマホを覗けば、あの呪いの王、両面宿儺の回収指示だった。
場所は宮城県仙台市の高校の百葉箱。
恐らく、呪いを呪いで祓う悪習のまま放置されていたのであろう。
特級呪物に分類されるそれは、大昔に封印されたとはいえ余りに時が過ぎ、呪いを封印しているお札は紙切れ同然だ。


「明日の新幹線で行け、だと」
「じゃあ私が任務に行く日と一緒だね」
「名前は静岡だったか」
「うん。たぶんすぐ帰って来れるよ」


呪術師というものは、呪いの強弱に限らず常に死との隣り合わせ。いつ何時、自分の階級より強い相手が現れたっておかしくは無い。

名前は常々、呪術師としての自分は世界の淵を歩いているような感覚があった。
呪いに負ければその世界からは振り落とされ、呪いを祓うことが出来れば名前にとっての大切な世界が守られる。
家の事も、非呪術師のことも、彼女にとってはどうでもいい。ただ、名前が好きな世界を守るために呪い合うだけ。



「めぐみぃー」


隣にいる恵の腕に抱きつき、肩口にぐりぐりと額を押し付ける。
恵は少し笑いながら「痛い」と小さく零すだけで、振り払う気配はない。
両面宿儺の指を回収するだけだが、呪いを取り込もうとするためにきっと呪霊もいるのだろう。
今回は祓うことが目的ではないし、恵の実力を疑ってるわけでもない。
でも心配なことには変わりはない。それはきっと、恵も名前に対して思っていることを彼女は知っていた。


「無事に帰ってきてね」
「名前もな」


肩口に額をつけたままだった名前の頭を、恵は反対の手で勢いよく撫でる。指通りのいい髪の毛はあっという間にぼさぼさだ。
名前は顔をあげて、恵の方に顎を乗せる。じっと彼の方を見つめていれば、視線に気づいた恵が掴まれていた腕を体の前に動かし、わざと名前のバランスを崩す。
そして恵は吸い込まれるように、名前の唇へと自身の唇を押し付けた。


「ね、今日ここで寝てもいい?」
「俺は別にいいけど。五条先生は?」
「悟くんは昨日から遠方に任務だから問題なし」
「じゃあもう寝るぞ。ほら」


スマホのアラームをセットして、ベッドサイドにある2つの充電器の1つへと繋いだ。
2人で寝るには少し狭いベッド。必然的に2人の距離はなくなる。
名前は恵の胸に潜り込めば、肺いっぱいに大好きな匂いを吸い込んだ。


「恵吸い」
「猫吸いみたいに言うな」


もう喋るなとでも言うように、恵は一層力強く名前を抱き込む。
おやすみなさいと名前が呟けば、おやすみと恵が返す。
寝れば明日が来てしまう。手離したくない時間。
どれだけ願っても時間が止まるわけではないけれど、名前は明日も名前の世界を守るために祓い続ける。
静岡のお土産は何にしようか。そんなことを考えながら恵に包まれて眠りについた。






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