02





予想通り早めに任務を終えた名前は、足早に東京行きの新幹線へと乗り込み東京へと戻る。術式の相性が良く、思った以上に早く終わることが出来た。
晴れ渡る空の下、お土産の入ったビニール袋を機嫌良く振り回しながら高専に続く坂道を進む。

恵はもう帰ってきているだろうか。
高専の結界に入ったところで、連絡ツールを開く。
いま帰ってきたことを告げれば、既読は思ったより早くつき、返ってきたメッセージを確認した名前は目を見張る。
返信することも忘れて、名前は素早くスマホを鞄の中へと仕舞い恵の部屋へと急いだ。


「恵?」


ノックを控えめに3回鳴らし、名前を呼ぶ。扉の向こうからの返答はない。
もしかしたら連絡の後、治療を受けた疲れから寝ているのかもしれない。起こすのも悪いと思い、名前は硝子の所へ向かおう踵を返した。その時、「名前」と呼ぶ声がして振り返れば、少し眠たそうな恵が扉から顔を覗かせていた。


「恵!」
「既読のまま返事がなかったから、多分こっちに向かってんだろうなって思いながらうとうとしてた」
「怪我は?硝子ちゃんに全部治してもらった?」
「ん。とりあえず入れば」


名前は傷がないことを確認するように恵の頬に手を添えれば、その上から彼の手が重なる。目立った出血も傷もないことを目視でも確認し、安堵の息をつく。
部屋へと促され、ふと恵の格好を見ると服はスウェットのまま。ベッドも掛け布団が乱れており、少し前まで寝ていたことが明白だ。
恵は任務終わりでしかも大怪我を負ったばかり。硝子の治療後とはいえ、押しかけるのはまずかったかと思い口をつぐんでいると、それに気づいた彼が名前の頬をつねった。


「……痛いんですけど」
「痛くしてるからな。後、怪我のことなら気にしなくていい。家入先生に治してもらったし、そろそろ起きようとは思ってた」
「なら、いいけど」
「それに、」
「それに?」
「…………名前に会えて、俺は嬉しい」


力は弱まったものの、むにむにと名前の頬で遊ぶ恵。
名前は顔が熱くなって咄嗟に顔を逸らしたかったが、頬を包まれているためそれは叶わない。早々に諦めた名前は言葉にならない唸り声をあげ、眉をひそめることしかできなかった。

されるがままになっていたその時、誰もいないはずの隣から誰かの話し声が聞こえる。2人は目を見張り、顔を見合せた。


「…………恵の隣って、誰もいないよね」
「そのはず……あ、」
「え?」
「もしかしたら新しい同期かも」


恵はそう言うと、扉の方へと向かう。
「げ」と嫌な声が漏れたその視線の先には、先日仙台で遭遇した宿儺の器、虎杖悠仁と五条悟がそこにいた。
名前は恵から事のあらましを聞いていたため、新入生が増えることはわかっていた。空室なんていくらでもあっただろうにと、後ろにいた名前はそう思っていれば彼も同じことを思っていたようで悟に反抗している。


「だって賑やかな方がいいでしょ?」
「授業と任務で充分です」
「そういうの、有難迷惑って言うんだよ。悟くん」


悟の勝手な行動に、名前は思わず口を出してしまった。相変わらず勝手な人だと、わざとらしく溜息をつく。
そんなことはお構いなしと言わんばかりに悟は話を進める。明日は、最後の1年生を迎えに行く日だと名前は聞いている。なんでもド田舎からこの東京へやってくると。そして悟、恵、悠仁の3人で迎えに行くらしい。悟のことだから、迎えに行くだけじゃないんだろうなあと、名前は心の中で独りごちた。


「てか名前、なんでここにいるの?」
「恵が怪我したって聞いたから様子見に来た」
「えっと……この子が3人目の子じゃないの?あ、俺虎杖悠仁!」
「五条名前です、ハジメマシテ。あと、私は2年だから3人目は違う子だよ」
「そっかー。…………ん?五条?」
「あ、ちなみに僕のいもうと」





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