08





Q:恵と名前は付きあっているのか否か


「虎杖はどう思う?」
「いやどうって……」


1年の教室には、悠仁と野薔薇が窓から外を眺めていた。
2人の向ける目線の先には、くだんの恵と名前が仲良く並んで歩いている。
名前はこれから任務と野薔薇は耳にしていた。その隣を歩く恵は見送りだろうか。こちらに気づくこともなく、門の方へと歩みを進めている。
関係性が気になった野薔薇は、直接恵に名前とどんな関係なのかと聞いたことがある。
すると、返って来た返答は予想とは違うものだった。

――昔の馴染みで、家族みたいなものだ。


「んなわけないでしょうが!」
「まあ確かに。でも伏黒がそう言ったんだろ?じゃあそれが答えじゃん」
「納得するわけないでしょ!?あんなお互い緩みきった顔しといて!付き合ってませんだあ!?」
「お、落ち着けよ釘崎」


恵の返答にどうも納得がいかない様子の野薔薇。真相を明かすべく、野薔薇は悠仁の首根っこを掴み、勢いのまま教室を飛び出した。
どこに行くのかと問えば、どうやら2年生の元へ向かうようだ。グラウンドに着くと名前以外の2年生が丁度休憩中だったのか、階段に座り一息ついている。


「おお野薔薇に悠仁。どうした?そんなに慌てて」
「こんぶ」
「お前ら元気だなあ」
「先輩方に聞きたいことがあります」


Q:恵と名前は付きあっているのか否か


「付き合ってはないな」
「しゃけ」
「うんうん」


3人は同じ返答をし、またもや野薔薇の予想とは違ったものだった。
ただ、真希の返答の仕方に少し疑問が浮かぶ。
付き合って″は″いないとは、いったいどういうことなのか。
追及しようとした野薔薇は顔をあげ、真希と目が合った瞬間、聞きたいことが見透かされていたのか「無駄だぞ」とひと蹴り。


「ちぇ、絶対付き合ってると思ったのに」
「もう諦めようぜ?先輩たちもこう言ってるんだし」
「そうそう。そのテの質問は諦めるこった。どうせ聞いても″昔の馴染みで、家族みたいなもん″としか答えねえよ」


真希の口から出た言葉は、野薔薇が恵に返されたものとほぼ相違がなかった。ということは、他の皆にも同様に言っていることになる。
だが端からどう見ても、2人は想い合っていて、それが通じ合っているようにしか見えない。
それなのに、何故当事者含む2年生もそうじゃないと言い切るのか。野薔薇は甚だ疑問だった。
そんな野薔薇の疑問が顔に出ていたのか、見兼ねた真希が口を開く。


「……付き合ってはいないがな、想い合ってることには変わりねえ。ただ、恵と名前が一緒になるには弊害が多すぎるんだ」
「弊害?」
「お前らが思ってるより、御三家っつーのはめんどくせえってこと」


恵は姓こそ伏黒だが禪院の呪いを継いで生まれ、名前は五条家の人間で尚且つ最強と謳われる五条悟の妹だ。
それに加えて、禪院家と五条家は仲が悪い。本人たちがどうも思っていなくても、両家にとってはそうもいかないことが多かった。


「お、噂をすれば恵だ」
「パンダ先輩。つか、他の皆もなにやってるんですか」
「恵と名前の話をしてたんだよ」
「高菜」
「はあ?なんで」
「伏黒と名前さんが付き合ってるのかどうかって話よ」
「それなら前に答えただろ。それ以上もそれ以下もねえよ。諦めろ」


それ以上もそれ以下もない。
恵と名前は、関係性に名前をつけるのを辞めたのだ。

事実、昔馴染みであること、家族みたいなものであることに間違いはない。そして現状は、そう答えることが得策であると判断した。
今後もし家の問題で何かが起こったとしても、お互いを守れるようにと。
それが恵と名前の約束だった。

名前との約束を思い出していると、悠仁がそっと恵の隣に立つ。


「伏黒も色々と大変なんだな」
「……別に。この関係性に名前がなくても、俺が名前を好きなことは自由だからな」


――そして、名前も俺を想ってくれているなら、それでいい。

言葉にはしなかったが、恵はそう心の中で独りごちた。





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