07





単独で任された任務は難無く終わり、治療がてら旧知の間柄である硝子の元へと名前は足を運んでいた。


「ありがとう硝子ちゃん。コーヒーあげる」
「ん、ありがと」
「そういえば楽巌寺学長を途中で見かけたけど、交流会の打ち合わせかな」


硝子にブラックの缶コーヒーを手渡し、名前は近くにあった椅子に腰をおろす。
去年は同期の乙骨が里香の解呪前で圧勝だったため、今年は東京校で交流会を行うはず。その打ち合わせのために来校したのが保守派筆頭であり京都校の学長、楽巌寺嘉伸。
なんとなく胸中がざわつき、以前に起きた事件が名前の頭を過る。
自分用に買ってきた飲み物を口にしながら、交流会前から何も起こらなければいいと思っていた、そんな矢先のことだった。
がらりと医務室の扉を開けたのは、額から血を流す恵の姿。
それを見た名前は反射的に立ち上がる。


「名前、」
「…………誰が来てんの」
「えっ」
「恵に手を出したのは誰」


先程楽巌寺が来ていたこと、そして名前の前にいる恵の姿。瞬時に京都校の誰かがけしかけたのだと推測する。
顔は笑っているのに目が笑っていない。静かに殺気を放つ名前に恵が少しうろたえていれば、彼女の背後にいた硝子が「落ち着け」と名前の頭を叩いた。
硝子は恐らく、恵が来る前に治療に来ていた真希と野薔薇に話を聞いたのだろう。くだんの人物はもういないと名前に告げ、恵には治療するからと椅子に座るように促す。


「そんなに深くないから大丈夫だ」
「……誰が来てたの」
「東堂と、禪院先輩」
「…………」
「殺すなよ。交流会だぞ」
「やだなあ、殺しはしないよ」
「名前のそういうとこ、五条先生に似てきたな」
「えっ、それは嫌……」


――――――――――


あれから2年生と1年生で稽古を続け、交流会の初日を迎える。
野薔薇が京都で姉妹校交流会と勘違いして凹んでいるのを尻目に、京都校の面々が勢揃いで東京校へとやってきた。
その中で、海外にいる乙骨の名前をぼそりと呟いく、一際体躯が大きく顔に傷を負った男。彼が話に聞く東堂葵で間違いないだろう。
ばちりと目が合い、名前はすっと目を細め葵を睨みつけた。


「お前、去年いなかったやつだな。1年か。2年か」
「2年の五条名前。先日はうちの1年がどうも」
「ほう……噂の五条悟の妹か。乙骨の代わり足りうるのか、楽しみだ」
「……言ってろ」


静かに怒りを表す名前に物珍しさを感じながら、恵は彼女の腕を掴んで自身の方へと引き寄せる。
交流会が始まる前から喧嘩を売るなという無言の圧力だ。
時間通りに来ない悟を待っていれば、がらがらと大きな音を立てながら悟がやって来る。安定の遅刻に謎のハイテンション。そして得体の知れない大きな箱。
全てにおいてどこか不気味さを感じていると、大きな箱から出てきたのは、悟と同様にハイテンションの故人、虎杖悠仁だった。

空気の温度差に、しばしの沈黙が訪れる。
特に関わりのあった恵と野薔薇は、他のメンバー以上に絶句している。
1年2人は悠仁の元へ、名前はひとり、楽巌寺に絡みに行っている悟の元へと足を進めた。


「悟くん」
「名前!いやあ、びっくりだよね、って痛い!何すんの!」


楽巌寺にうざい絡み方をしている悟の背中に声をかけながら、殴って止めに入る名前。
故人であった悠仁が生き返り、尚且つ誰にも知らされていなかった。知らせる方法がサプライズだと思っているのは恐らく悟本人だけだろう。
未だハイテンションの悟に苛立ちを感じた名前は、彼の腕を無言でもう一度殴った。


「悟くんのあほ」
「なんで!?」
「夜蛾学長にも怒られちゃえ」


悠仁の生存と秘密にしていたこと、楽巌寺を煽ったこと、その他諸々。
名前が踵を返したその後ろでは、悟が夜蛾に技をかけられていた。

何はともあれ、悠仁の合流は予定外の戦力であることには間違いない。
これから、呪い合いの京都姉妹校交流会が始まる。名前はこきりと、肩を鳴らした。





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