03





「……ん、」


カーテンから零れる陽射しで目が覚める。
ベッドの側に置いた時計に目をやれば、目覚ましを掛けなかったにしては朝のいい時間。
後ろからは愛しい寝息が聞こえ、お腹には大きな腕が後ろから組まれていた。
昨日はお互い仕事がひと段落ついて、亜貴が泊まりに来たわけである。
せっかく早めに目が覚めたのだから朝ごはんでも作ろうか。
そっと亜貴の腕の中を抜け出して、よく眠る亜貴の頬にキスをひとつ落す。

ベッドから降りて、ぱっと手に取ったのがたまたま私の部屋に置いてあった亜貴が着てる服だったけど、自分のを出すのが面倒だったのでそのまま着てしまおう。亜貴が着ても大きめの服は私にとってのワンピースになるから1枚で済むし。
顔を洗って、ぱたぱたとスリッパを鳴らしながらキッチンへと向かう。

私は会社の設立と共に家を出てひとり暮らしを始めた。
家族と仲が悪いとかじゃなくて、ひとり暮らしに憧れてたっていうのと自分自身の自立の為。もちろん料理も自分でする。
ご飯にしようかパンにしようか。食パンがあるからフレンチトーストもありかな。一緒に温かいスープも作ろう。


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「あき、おきて」


朝ごはんの準備を終えて寝室に戻れば、亜貴はまだベッドで夢の中。静かに寝息を立てて寝ている。
仕事が立て込むと自分を追い込む癖のある亜貴のことだ。今回もろくに寝ていなかったんだろう。
でも今日は私も亜貴も何も予定はないから、朝ごはんを食べてまたゆっくりするのもいいと思うわけで。
声をかけても揺すっても、亜貴は眉間に皺を寄せて唸るだけで、一向に起きる気配はない。


「もー……起きないならちゅーしちゃうぞー……」


それはほんの少し芽生えたイタズラ心。
朝したように、もう一度そっと頬にキスをしようとすれば、ベッドの中から伸びてきた腕が私を捉えた。
勢いそのまま引き摺りこまれて、寝起きとは思えない程の強さで私を抱きしめる。


「……キスしてくれるなら、唇がいいんだけど?」
「…………いつから起きてたの」
「名前が頬にキスしてきた時から」
「なにそれ最初からじゃん」


寝起きのかすれた声に少しどきっとする。ていうか起きてるなら起きてるって言ってくれてもいいのに。


「で?」
「なに?」
「おはようのキスは?してくれないわけ?」


キスなんて、普段は恥ずかしくてあんまり自分からはしない。さっきだって亜貴が寝てたから出来たこと。起きた状態だとどうしても恥ずかしさが勝ってしまう。
亜貴はそれをわかってわざと私に問いかけてる。いじわるなやつ。
でもこのまましないとなると何だか負けた気がして釈然としない。私は亜貴にキスをしたらすぐ離れるつもりだったのに、唇が触れた瞬間、私の後頭部には亜貴の大きな手のひらが回る。

思いがけない出来事に、いつも以上に息ができない。
朝から加減を知らないそれに、私は亜貴の服を思いきり握った。少しして亜貴は満足気な顔で私から手を離す。


「……ふっ、名前顔真っ赤」
「だれのせい……!」
「ていうか僕の服着ないでよ」
「しらないっ!朝ごはん出来てるから早く顔洗ってリビングに来なさいよね!」


まるで捨て台詞みたいにそう言い放って扉を勢いよく閉める。きっと扉の向こうではくすくすと笑っているのだろう。いつまでたっても勝てない亜貴にいつか絶対仕返ししてやることを誓って、早く顔の火照りが冷めるように私は手で顔を扇いだ。






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