とある昼下がり。私は大きな仕事を終えて、今日は久しぶりの休日。
いつもより少し遅めに起きて、最近出来ていなかった掃除も念入りに。
あらかた終わったところでコーヒーでも入れようか、そう思っていたらテーブルに置いた私のスマホが鳴り響く。
着信の相手は神楽亜貴。
「もしもし?」
『もしもし、ごめん、いま電話大丈夫…って、そうか、今日休みだったね』
電話越しにばたばたとした音が聞こえる。彼は恐らく今車に乗り込んだようだ。
「そうだけど……何?なんかあったの?」
『休みのところ申し訳ないんだけど、確認して欲しい案件があって。いまから名前の家に寄っても大丈夫?』
「全然大丈夫」
『ありがと』
手短に電話を終わらせて、コーヒーメーカーをセット。
急いでるみたいだから、タンブラーにでもいれてあげたら車内で飲めるかな。
そんなことをのんびり思いながら、亜貴の到着を待つ。
数十分後に亜貴はやってきて、腕時計で時間を確認して足早にローテーブルへと資料を並べた。
「ほんとにごめん。これと……これと」
「これは?」
「ああ、それも。それから─────」
いくつかの書類に目を通して、問われる内容に返答をした後、亜貴は大きな溜息をついた。
「……お疲れだね」
「まあね。こんなぎりぎりになると思わなかったけど……」
疲れきってしょんぼりしてる亜貴を見てたら、なんだか可愛く思えてきた私は、思わず頭を撫でたい衝動に駆られ、欲望のままさらさらの髪の毛をわしわしと撫でる。
余程疲れているのか、亜貴は無抵抗のまま。
「あ、そうだ。コーヒー作ったけど持ってく?タンブラーあるし、車で飲めると思うけど」
「……いる」
「おっけ」
台所に向かい、準備してあったタンブラーにコーヒーを入れる。そこまで熱くないからすぐ飲めそう。猫舌の彼を思い、振り返ればそこには亜貴がいて。
「わ、びっくりした」
「名前、」
気がつけば、私は亜貴の腕の中で。腰に腕を回され、顔が私の肩に乗り、頬にあたる髪の毛がくすぐったく感じる。
「……あき?」
「……少し充電してから戻る」
「時間は?」
「思ったよりあるから大丈夫」
そう言って擦り寄る亜貴はなんだか猫みたい。そんな彼の姿見て、少し笑ったあと私はまた柔らかい髪の毛を撫でた。こんなに甘えてくるのも珍しい。
「……名前」
「なに、っん」
甘えてきたと思ったら、次はキスの雨が降ってきた。
何度も何度も角度を変えて、貪り尽くされるような感覚に酸素が足らなくなる。
「……っ、あき、」
「黙って」
息を吸うこともままならない。私はただ、亜貴の服を握ることしかできなかった。
どれくらいたっただろうか、亜貴の携帯がぴこんと通知を知らせる音がする。
名残惜しそうにぺろりと最後に舐めてから離れた亜貴は、眉間にしわを寄せて携帯を確認した。
「……時間か」
置いてあったタンブラーをちゃっかり持って「続きは仕事が終わってから」なんて耳元で囁くから、かっと顔に熱が集まるのがわかる。
私は、恥ずかしさのあまり早く行けと言わんばかりに亜貴を玄関まで押しやり「行ってらっしゃい」と彼を見送った。
車のエンジン音が遠ざかる音を聞きながら、まだ熱い顔をぱたぱたと扇ぐ。
晩ご飯は何にしようか、なんて考えながら、スーパーへと向かう準備を始めるのだった。
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