十一月の向日葵

部活を終えたら、家の近くの公園に立ち寄るのが日課だった。約束しているわけではないけれど、あいつももうすぐ来るんだろうなぁと思いながらブランコに腰掛ける。

「ほい、お疲れさん!」

そう言ってジュースを手渡してくれたのは、思っていた通り菊丸だった。ありがと、と言えば眩しい笑顔でどういたしまして!と返ってくる。缶ジュースのふたを開けると、ぷしゅっと炭酸の抜ける音がした。

「んー!これ、美味しいね」
「やっぱりー?みょうじが好きそうだなって思ってさ」
「すごい、当たってる」
「俺にもちょっとちょーだい」

いいよ、と言う前に奪われる。ちょっとと言った割には飲み過ぎじゃないか、なんて奢ってもらったくせに心のなかで愚痴をこぼした。

「なかなかいけてんね!」
「え、味知ってたんじゃないの?」
「んーん、初めて買った」

さっすが俺だよね!なんて悦に入っている菊丸からジュースを奪い返す。以前からこういうことがよくあって、いつも不思議に思っていた。どうして菊丸はそういうの、わかっちゃうんだろう?

「よくわかったねー、私の好きな味」
「へへっ、まーね!みょうじも俺のこと、なんでもいいから当ててみてよ」

無茶なことを、と思いながら菊丸を目で追う。隣のブランコに腰掛けると、長い足を投げ出してゆらゆらと揺れていた。

「えーっと、菊丸は夏生まれっぽい!」

なんでもいいからと言ったくせに、当の本人はぽかんとしている。大きな瞳を瞬かせて、可愛らしく首を傾げた。

「なんでなんで?」
「ええと、向日葵とか似合いそうだから !」

明るくてムードメーカー、そんなところがなんとなく向日葵のイメージと重なる。だから自信満々にそう答えたのに、菊丸は大きな声をあげて笑った。

「ぶぶー、残念でしたー!俺は十一月生まれだよん」
「かすりもしてないし……」
「あはは!そだ、これ一緒に食べない?」

スクールバッグから出してきたのは最近私が気に入ってよく食べているお菓子で、でもそれを菊丸に言ったことはない。

「こういうの好きそうだなって思って」
「なんで菊丸は私のことそんなにわかるの?」
「なんでだと思う?」
「もしかして心が読める、とか」

馬鹿げた答えだと思いながらも、それ以外に思い付かなかった。そんな私を見つめながらお腹を抱えてひとしきり笑ったあと、呼吸を整えるために深く息を吐く。そうしてこちらを見据えながら、にっこりと微笑んだ。

「わかんないこともあるよ」

菊丸には似つかわしくない、大人びた笑いかただと思った。雰囲気に圧倒されて、声が出せない。

「たとえばどんな人を好きになるのか、とか」
「そんなの知りたい?」
「うん、教えてよ」
「ごめん、私もわかんない」
「じゃあ俺とかどう?」
「それ、いいかも」
「でしょ?」

あまりに唐突な提案に考えを巡らせることもなく即答する。菊丸はゆらゆらと揺れていたブランコから飛び降りると、座っているだけの私の前に立った。差し出された手を握って立ち上がると、私の知っている向日葵みたいな笑顔を咲かせていた。


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