Even so, ILY

(※大人になってる、財前視点)


「……何しに来たん、光」
「この近くで呑んでた、自分ち帰るんめんどいから泊めて」

こんな夜遅くに迷惑だ、非常識だと言いながらなまえさんはドアを開けてくれる。いつだってそうだ、そんなふうに過ごせる関係を今まで築きあげてきた。

「もう!光だけやでこんなん許すん」
「どーも」

でも本当は、俺を信頼しきったような眼差しやまっすぐな優しさが辛い。友人なんかでいられない、壊してしまおうと思ったことは何度もあるのに、結局何もできない自分は案外臆病者なのかもしれない。

「それ、お酒?まだ呑むん」
「ふたり分やからな」
「いや、それにしても買いすぎやろ」

手土産の入ったコンビニの袋を指差して呆れるなまえさんの横を通り抜けて、いつものように部屋の中へ入る。

「シャワー貸して」
「え、うん、いいけど……」
「けど、何?なまえさんも一緒に入りたい?」
「何言ってんの!?年上からかったらバチあたるで!」
「……年上って、いっこしか変わらんし」

たったひとつの年齢差、俺は一生それを越えられない。

中学で初めて出会った時から頑なにタメ口で話続けてきた。思い返せばとても失礼な態度をとっていたのに、今もこうして健全とはいえ付き合いが続いているのはありがたいことだと思う。昔からアピールしてきたのに全く伝わらない自分の不甲斐なさには少々落ち込むが、そういえばストレートに迫ったことはないな、と今更ながらに気付いた。

そんなことを考えながら、最後に熱めのシャワーを浴びる。早めに上がったつもりだったのに、なまえさんはすでに小さなソファで身体を丸めて眠っていた。

「なまえさん?……寝たん?」

何度か呼び掛けても起きなくて、まずいことになったと頭を抱える。ゆすり起こそうかとも考えたが、眠っている異性に触れることは許されない行為のような気がした。

「友達とはいえ、仮にも男の前でこんなふうに寝るか?」

ごく近くにいるのに、指一本触れることすら叶わない。ならばせめて、この光景を覚えておこうと思った。薄くあいた唇、今にも見えそうな胸元、露になった脚、その全てをこの両目に焼き付ける。

「気持ちよさそうな顔しよって……ホンマむかつく」

重い息を吐いて、視界からなまえさんを外す。これ以上意識をしないように意識して、俺はひとりで呑み直すことにした。

何かが動く音がして、はたと顔を上げる。どうやら座ったまま眠ってしまったようだ。

「……あれ、光?」
「ん、おそよう」

自分もそうだったくせに夜通し起きていたかのように振る舞うと、なまえさんは驚いたように声をあげた。

「え?もう朝!?ずっと呑んでたん!?」
「……まだ夜中の3時やで」

時計を見上げただけなのに、軽く眩暈がした。眉間にぐっと力を入れて目を閉じると、ふふ、と軽く笑う声が聞こえてきたので薄く目を開ける。

「光、酔ってるん?」
「あほう、んなわけないし」
「私が寝とったから、寂しかった?」
「別に、自意識過剰ちゃう」
「拗ねてる光、なんか可愛いなぁ」

まるで小さな子どもを相手にするかのように、ごめんねと言いながら頭を撫でてくる。なんだか無性に腹が立って、ソファに座るなまえさんを睨みつけた。それすらも面白いというかのように、その手は撫でることを辞めない。俺は睨みつけたまま、細い手首を握って動きを止めた。

「ええ加減もう付き合えや」
「お酒?私は大丈夫やけど、光は呑みすぎちゃう?」
「酒、ね……」

友人としか見られていないことはわかっている、だけど俺はそうじゃないから。

のんきななまえさんの手首を離して、隣に無理矢理腰かける。その弾みゆえに互いの手がほんの少し触れあったが、繋がれることもなく離されもしない。今度はただただじっとなまえさんの目を見つめてみると、なぁに、と言ってのほほんと笑っていた。

こんなに近くで見つめ合うなんて、友人という関係ではあり得ない。俺は男だということすら意識してもらえていないのか、それとも。

すっと手の甲を指で撫でてみる。僅かに動いたものの、その手はその場を動かない。それをいいことに自分の手を重ねて、指を絡めた。なまえさんはうつむいてしまったが、俺はそれをのぞきこんで顔を近づける。重なった唇が離れる時に、アルコールの香りがした。

「……酒くさいのん、移したった」

何も言わないなまえさんが少しだけうらめしい。罵倒でも号泣でもいい、反応がないことがこんなに怖いだなんて想像もしていなかった。

「なあ、なんか言えや」
「……光にはこういうこと、してほしくなかった」

何か反応が欲しいと願っていたくせに、俺はその言葉に顔をしかめる。自信や余裕などかけらもなくて、何か言おうとしても声にならない。そうしているうちに、なまえさんが顔をあげた。

それから、とても長い時間見つめあっていた気がする。緊張と静寂のせいか、今までどのように唾液を飲み込んでいたのかわからなくなって、喉が大きく鳴った。

「……好き、やから」

細い声で紡がれた言葉にひどく案著する。さぞ間抜けな顔をしていることだろう、でもそれを抑えられないほど嬉しくて胸が苦しい。

「なら、」

問題ない、そう告げて再び口付けた。

驚きと不安が混じったような瞳で見つめられて、身体の奥がぞくりと疼く。このままだと本気で泣かれてしまいそうだったので、逸る衝動を抑えてまずはけじめをつけようと思った。

「なまえさんが好き」
「聞こえんかったからもう一回、」
「はいダウト。もう黙れば?」

もう何も抑える必要などなくなって、吐息を絡めあいながらゆっくりと押し倒す。ふたり分の重さを受けて、小さなソファが鈍い音を立てた。


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