五度目の春が来れば会える、そう僅かな期待を胸に抱いて。
春を、待ちわびている。
「渡邊先生。私、先生が好きです」
まだ寒さも厳しい二月。別れの春はすぐそこまで近付いているはずなのに、大した感慨もなく新任教師として過ごした一年を終えようとしていた。
生徒は可愛いし、同僚も校風も気に入った。とても充実した一年だったと胸を張って言える。確かに春が来れば三年生は卒業していなくなるが、それと同時に新入生が入学するのだ。学校の活気も以前と変わらないものとなり、俺はまた忙しく駆け回って、気付けばまた春を迎えるのだろう。そういう風に考えていた。
「何も言ってくれないんですか」
みょうじの凛とした声で、自分が思考に耽っていたことに気付く。今から俺がすることは、告白に対する最低な応え方だ。
「それはただの憧れや。みょうじはこれから大人になって、きっといつかわかる日がくる」
違います、そう答えるみょうじを制して言葉を続ける。
「進学して、社会人になって、価値観が変わったその時にはみょうじも気付く」
私が子どもだから駄目なんですか、そう真っ直ぐ告げたみょうじは俺よりもよほど大人に見える。そうではないという意味を込めて軽く首を振り、大人として、教師として、一人の人間に向き合うための言葉を告げた。
「またいつでも遊びにおいで」
「渡邊先生、私、必ず会いに行きます」
五年後、成人を迎える春に。みょうじのその覚悟が見え隠れする言葉に気付かないふりをして、静かに頷く。卒業おめでとう、そう伝えると今度はみょうじが小さく頷いた。
あれからもうすぐ五年。
次の春で、ようやく五度目を迎える。
約束とすら呼べないことは重々理解していた。ただその上で、あの凛とした声をもう一度聞いてみたいと願っている自分がいるのだ。