(※一氏視点)
昼休みを利用して軽く寝ようと場所を探していると、どこかから知っている声が聞こえてきた。あまり穏やかではない雰囲気を感じ取ったので大体のあたりをつけてそちらへ向かうと、男子生徒が女子生徒へ詰め寄っている様子が見える。
「せやから無理やって」
「ええやん、俺かっこええやろ?」
「ないない!ぜんっぜんタイプちゃうし!」
「は?傷付くわー」
おそらく告白されて断ったのだろう。それに納得できない男子生徒が食ってかかり、口論になりかけている。確かに率直すぎて相手に同情もするが、見過ごすことはできなかった。
「おーい、女の子嫌がっとるやんけ」
「誰?自分関係ないやん」
「友達やけど?」
関係ない、その言葉に苛立ってつい睨みつける。それに、どうして好きなやつのことを友達だと自分の口から言わなければならないのか。私怨も込められたひと睨みに加え、普段から人相があまりよろしくないことも多少あったのだろう、男子生徒はそのまま「もうええわ」と吐き捨てて去っていった。
「軽率に告られんなや、アホ」
触れずにデコピンする真似をすると、いてて、と言ってなまえはようやくほっとしたように笑った。
「私可愛いから仕方ないねー」
「で?なまえのタイプって?」
「お、気になる?」
「アホぬかせ、ちょーっとだけな!」
「えっとね、めっちゃいい奴やけど目つきも態度も口も悪くてお笑い芸人みたいで愛が重い人!あと心が男前なうえに可愛いとこあるとなお良し」
「特殊すぎるわ!」
そうはツッコミをいれたものの、あまりに具体的すぎる回答にまさか、と冷や汗をかく。
「うっさいなー、そういうユウジは?」
「俺?……俺見て笑ってくれて、自分のこと可愛いと思ってるやつ」
「ふーん?変わった趣味やな……?」
今さっき自分で自分のこと可愛い言うてたやんけ、なんて悪態を心のなかでつく。こいつ、鈍すぎるやろ。俺が片思いしているなんて想像もしていないか、一ミリも俺のことが眼中にないか、そのどちらかだろう。
「えらい具体的やったけど、なまえって好きな奴おるん?」
やけくそになってそう尋ねると、なまえはひどく悲しそうな顔をした。動揺のあまり固まっていると、綺麗な瞳から大粒の涙が溢れていく。
「え!なに泣いてんねん!どうした、どっか痛いんか。俺が来る前あいつになんかされた?」
「ちゃう、大丈夫」
「大丈夫な奴が泣くかボケェ!ほら、おぶったるから背中乗り、保健室行くで!」
あまりに俺が捲し立てるものだから、なまえは呆然としていた。目の前にしゃがみこんで、背中に乗るよう再度催促する。
「ちゃうから!ほんまに大丈夫。ちゃうねん、これは、好きな人に好きな人がおること思い出しただけで……」
それを聞いて血の気が引いた気がした。自分の質問により泣かせてしまったうえに、その発言は俺にとって大打撃でしかない。
「そ、そうなんか……やっぱ好きな奴が……ってちゃうちゃう!あのな、なまえ」
好きな人がいる、その衝撃に耐えつつもなんとか支えてやりたい一心で言葉を紡ぐ。なまえと目が合わないことがこんなにも寂しい気持ちにさせるだなんて、思ってもみなかった。
「なまえができることやりつくしてもし砕けてもうても、俺がまた笑かしたる!」
やっとこちらを見たなまえの鼻が真っ赤で、それが可笑しくて可愛くて、切ない。その気持ちが自分に向けられていないことは重々承知しているが、自分の感情は置いておいて未だ瞳を潤ませているなまえを優先したかった。
「それにな、当たって砕けるほうがスッキリするで!まず押して押して押すんや!ワンチャンラッキーがあるかもしれん!」
「……ふふ、何そのアドバイス。根性論すぎるやろ」
少し笑ってくれたことで、自分の心も満たされていく。好きな相手のことでは涙を流したが、俺には笑ってくれたから今日のところはこっちの勝ちやな。そんな考えは負け惜しみでしかないだろうか。
「大丈夫やで、なまえには俺がおるから」
「ユウジ、ありがとう」
「おう!」
片手をグーの形にしてなまえの目の前に出すと、なまえも同じようにして俺の拳に触れる。いつかこれがパーになって手を繋げたらな、いや最終的にはグーか?なんて空想を繰り広げながら、こちらをニコニコして見上げるなまえに同じように笑いかけた。