愛しき想い出

(※悲恋、大人、元恋人)


(……ユ、ウジ)

熱いコーヒーを片手に、せわしい街なかのコンビニでひと休みしていた。たくさんの人の中に、ふと懐かしい姿を見かけて泣きそうになる。見間違えるはずなんてない。行き交う人の波の中、あなたの背中が遠ざかって見えなくなるまで目で追いかけた。

私たちは、互いに依存しあっていた。

依存することが百パーセント悪いとは今でも思わないけど、間違っていると言われても理解できる。辛い辛いと泣いていたけど、本当に辛かったのは誰だろう。あの頃の私は、確かにあなたで出来ていた。偽りの気持ちが本物になっていたこと、今ならわかるのに。もう取り戻すことはできないけど、あれもひとつの恋の形だったと思う。

大切にしまってあった思い出の引き出しを、私は少し開けたくなった。

初めて恋愛の相談をしたのは、春の終わり頃だった。

「ユウジ、聞いてーや」
「ほーん、良かったなー」
「ちょ、返事フレッシュすぎるやろ!」
「はいー?意味わからん」
「生返事ってこと!」

あの頃は、一方的に相談してたっけ。

「あんな、私な、好きな人できた!」

話を聞いていないフリをして、ちゃんと耳を傾けてくれていた優しい人。

「はー、なんで放課後にユウジとふたりでマクドおるんー?」
「文句あるなら俺は帰るで」
「ゴメンナサイ嘘うそ、ユウジありがとー!」
「調子ええやつー」

何かある度にユウジに話を聞いてもらって、寄り道をした。

「……、おい、釣りいらんからこれでポテトLサイズ買ってこいや」
「はー?そんなん自分で行きーやー、だるいー」
「ええから!はよう!」
「ほな、じゃんけん、……っ!」
「あーもう!あほんだら!」

あの時座っていた席からは外がよく見えたから、ユウジは見せないように気遣ってくれたんだと思う。私の好きな人が、女の子と手を繋いで歩いている姿を。

呆然とする私の近くにきて、何も見なくてすむように私の頭をすっぽりと抱えてくれた。一定のリズムを保って優しく背中を叩かれていたのに、痛いって言いながらユウジの胸で泣いた。

「あいつのこと好きなままでいい、俺と付き合えば?」

何も言わずに泣きじゃくる私を、あたたかい言葉で包んでくれた人。

「俺やったらお前のことこんな風に泣かせたりせん。そのうち俺のこと好きにさせたるから安心しぃ」

弱くて愚かな私は、小さく頷いた。

「手ぇ」
「テー?」
「…………繋いだるってことや、そんくらいわかれ!」

ユウジの言葉は乱暴だけど、私が不安にならないように行動で気持ちを示してくれた。

「ありがと。私、ユウジのこと……」

気持ちを返さなきゃ、そう思って無理に好きだと言おうとして、ユウジを傷つけたこともある。

「おおきに。わかってる、けどホンマに言いたくなったときに言うて。楽しみにしとる」

この気持ちは同情で、愛情なんかじゃないと思っていた。だから好きだと言えなくて、それでも絶えずユウジから与えられる愛情に満足して、現状に甘えていたんだと思う。

「しても良い?」
「うん」

初めてのキスは、もうよく覚えていない。ただ、ユウジが泣きそうになっていたことだけが記憶に残っている。

「好き、好きや……」

私はユウジがそう口にするたびに、私は言葉のかわりにユウジの頬へキスを返した。同情からだと思っていたけど、きっとあの時にはもう好きだった。

ユウジがいることで安心して、ユウジがいたから私は過去の恋を忘れられなかった。

反対に、私があんな風だったから、ユウジも臆病になっていたんだと思う。

互いに好きあっているはずなのに、歯車はうまく重ならなかった。

付き合うことになってから、決めていたことがある。どういう返事になったとしても、卒業式の日にけじめをつける、と。

「なー、ユウジ」
「なんやー」
「卒業おめでとう、……別れよっか」
「……なんで」

ユウジが動揺しているとわかっていたのに、あの頃はこれが最善なのだと信じて、私は冷たく言い放った。

「ユウジとおるの、辛い」

そう言って涙する私は、結局私のことしか考えていなかった。悲劇のヒロイン、そんな風に自分を捉えていたのかもしれない。

「ユウジはな、優しくて、あったかくて、しょっぱいねん」
「……は、」
「こんな関係、私もユウジも駄目んなる」
「そんなことない!」
「あるねん。……だから」

ありがとう。

またねなんて言えなくて、さよならも聞きたくなかった。ずるい私はそのままユウジの声も聞かないで、好きだと言えないままこの関係に無理矢理ピリオドを打ったのだ。

長い間思い出にふけっていたようで、コーヒーはすっかり冷めてしまった。一気に飲み干して空にしたカップを握りしめて、脳裏に焼き付けた先程の光景を思い出す。ユウジ、歩くの早くなったな。それとも、私に合わせてゆっくり歩いてくれていたのかな。他人に合わせるなんて、一番苦手そうなのに。そう思うと、ひどく可笑しかった。

もう決して隣を歩くことはなくて、あなたを想う形は変わってしまったけど、あの頃の思い出は今も心の片隅にしまってある。優しくて、あたたかくて、大好きだった人。

どうか、幸せになってください。


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