チョコレートのはなし

一月中旬。大阪でも雪が降ったり、浅い水たまりがうっすら凍るほどの寒さになる。マフラーに顔を埋めながら教室に入ると、暖房がまだきいていないのか、席についているなまえも同じようにマフラーに顔を埋めていた。

「何見てるん?」

熱心に何かの冊子を読み込んでいたので、自然と俺の視線もそこへ落ちる。

「チョコ見てる」
「あー、バレンタインか」

クリスマス、年末年始ときて次はバレンタイン。流れるようにイベントごとが次々と訪れて四天宝寺中学は常にせわしないが、それが楽しくもあった。

「推しにチョコを送る文化があってさ、どれにするか悩んでる」

どれがいいかな?ちなみに推しはこの子なんやけど、と見せられたのは漫画のいちキャラクターだった。

「イケメンやな」
「せやろ!?でもそれだけじゃないねん!」

キラキラとした瞳で推しの好きなところを挙げていくなまえの話を聞くのは複雑でもあり、楽しくもある。この笑顔が全部自分だけに向けられたのなら、なんて想像をしながら話半分に聞いていた。

「ほんでさ、過去のバレンタインの結果をまとめたものがあるんやけどさ」

私の推し、年々順位が下がってるから応援せなあかんくて!となまえが悔しがっている。どうやら送られてきたチョコレートの数が週刊誌上で発表されるようで、毎年盛り上がっているらしい。全期分をまとめたデータを見ていると、とあるキャラクターだけほぼ毎年一位をとっていることに気が付いた。

「このキャラが一番人気なん?」
「人気なのはもちろんなんやけど、この方にはみんな納税する習わしがあって」
「納税……?大変やな……?」
「全然!めっちゃ楽しいで!これは白石も好きなお祭りや、お祭り」
「祭りは楽しいな!」

ここにきて宛名やその後のチョコレートの行方などについて多少気にはなったものの、知ったところで自分には無縁なので気にしないようにした。

バレンタイン当日もなまえは特にいつもと変わらなかった。三年生は部活を引退したものの、何事も無かったかのようにテニスに打ち込んでいる。用事のため部室へ入るとこっそりチョコレートを食べてるなまえに遭遇し、あ、という声が重なった。

「マネージャー業務しに来てくれたん?おおきに」
「いえ、まあぬくぬくしながらチョコ食べてるだけやけど」
「そのようやな」
「バレてしまったもんは仕方ない、これあげる!」

せやから怒らんとってね、とチョコレートをひと粒取るよう促される。口の中へ放り込むと、程よい甘さが口の中で溶けていった。

「納税されてもた」
「むしろ賄賂ですが」
「ははっ!賄賂はちょっと。納税ということで」

チャンスだった。今しかない、と急いでロッカーから紙袋を取り出す。

「はい、これなまえに」
「なになに?バレンタイン?」
「んー、返礼品?ふるさと納税の」
「私のふるさと白石なん!?」

息ができんと言いながら大笑いしてくれているなまえを見て、心のなかでガッツポーズをした。厳密に言えば自分のふるさとじゃなくてもふるさと納税には申し込めるらしいが、その事実は今この場において重要ではない。

「ありがと!」
「どういたしまして。良かったら手伝ってほしいことがあるんやけど、頼んでもええかな?」
「はーい」

これ食べたらね!とニコニコしているなまえは何も気付いていないようだった。すぐに背を向けたので、完全に照れて格好悪い顔は見られていないはず。渡し方は不自然じゃなかっただろうか。こういったことには不馴れで、なんでもない風を装うことはとても難しかった。

なまえに渡した紙袋には綺麗に包装されたチョコレートの箱と、その下に想いを綴った手紙が入っている。

なまえは手紙に気付いてくれるだろうか?読んだらどんな顔をして、どんな返事をくれるのだろう。いや待てよ、もしも気付いてもらえなかったら?

期待と不安と緊張で、今夜は眠れそうにない。


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