「みょうじさん、見て見て」
いつか見た夢のように、きらきらと瞳を輝かせて幸村くんがネクタイを見せてくれた。あの夢のなかではちゃんと結べてたっけ、まさか半分正夢だとは思わなかった。
「……自分でやったんだね」
「そう、どうかな?」
挑戦したことは素晴らしいと思う、その努力とやる気は認めよう。でもごめん、それ、お世辞にも上手とは言えない。
「直してもいいですか」
「えー、やっぱり変かな?」
「どう見ても変でしょ」
本人は自信があったみたいで、しょんぼりと項垂れている。私が知ってる幸村くんは可愛いところがたくさんある、だけど。
「幸村くんはかっこいいんだから、ネクタイもビシッとしてなきゃ」
可愛い、なんて幸村くんのほんの一部のこと。容姿は完璧だし、勉強もできるし、テニスをしている姿はかっこいい。羨ましすぎてため息が出るよと思いながらネクタイの結び目を締め上げていると、幸村くんがまばたきもせずに固まっていた。どうしたの、と聞こうとしたのを寸前のところでやめる。……幸村くんの頬が、ちょっと赤い。
「俺、かっこいいの?」
「いやいや、普通にかっこいいでしょ」
「ネクタイ結べないのに?」
「何それ、かわい……おっと」
可愛いって言うと怒られるんだった、危ない危ない。でもそんなふうに自信なさげにされると、言ってしまいたくなるんだよなぁ。
「かっこいいよ。かっこいいし面白いしちょっと意地悪なときあるけど優しいし」
珍しく照れている幸村くんを見ていると、私もだんだん恥ずかしくなってくる。人を褒めるのって、なんとなく照れくさい。
「……あのさ、驚かないで聞いてほしいんだけど」
「うん」
「俺、実はネクタイ結べる」
「あー、はいはい」
さっき見た通りでしょ、と適当に流す。なのに、ちょっと失礼と声をかけられて幸村くんの手が私のネクタイにかかると、するりとほどかれて再び手際よく結ばれていく。
「ほら、ね?」
ほんとだ、という言葉は声にならなかった。ネクタイを結ばれる側も緊張するんだね。そしてあれだ、ちゃんと結べる人に結び方を教えてた自分がとても恥ずかしい。
「えーっと、じゃあ……」
「なんで結べないふりしてたか、なんだけど」
こくん、と頷く。私は綺麗に結ばれたネクタイを指で確かめながら、視線を合わせられないでいた。
「きっかけを、探してて」
「なんの」
「みょうじさんと喋るための」
全然わからない、なんでそんなこと。きっと、そんな顔をしていたんだと思う。
「好きなんだ、みょうじさんが」
まさか幸村くんがそう思ってくれていただなんて、ただただ驚くことしかできない。嘘をついていてごめんと謝られたけど、そんなことはどうでもよくなっていた。
「……ありがとう」
「俺のことどう思ってる?」
「一緒にいると楽しいよ」
「じゃあ可能性はある?」
どう答えようか悩んだけど、私は素直に小さく頷く。
「はー、緊張した……」
「幸村くんでも緊張するんだ」
「するでしょ、普通」
告白したことはないけど、それがどれだけ怖いことなのかは安堵した幸村くんの顔を見れば想像できる。
「遠慮しないから、覚悟しててね」
想像できた、のに。突然強気になった幸村くんに動揺して、狼狽えることしかできなかった。